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裁判年月日 昭和29年 4月12日 裁判所名 東京高裁

事件番号 昭28(行ナ)13号

事件名 商標登録願拒絶査定審決取消請求事件

一、主  文

 

 原告の請求を棄却する。

 訴訟費用は原告の負担とする。

 この判決に対する上告提起の期間として、原告のため三ケ月を附加する。

 

 二、事  実

 

第一 請求の趣旨

 原告訴訟代理人は、昭和二十七年抗告審判第一九一号事件につき、特許庁が、昭和二十七年十二月十五日になした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立てた。

第二 請求の原因

 原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

 一、原告は昭和二十五年二月八日別紙記載のように、ゴシツク体で「AJAX」のローマ字を横書にして構成されている原告の商標について、指定商品を第四類石鹸として登録を出願したところ、(昭和二十五年商標登録願第二、二三七号事件)昭和二十六年九月二十五日拒絶査定を受けたので、昭和二十七年三月七日抗告審判を請求したが、(昭和二十七年抗告審判第一九一号事件)特許庁は、同年十二月十五日原告の抗告審判請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は、昭和二十七年十二月二十七日原告代理人に送達せられた。(原告は、外国に本店を有する会社であるため、出訴期間は、昭和二十八年九月二十五日まで延長された。)

 二、右審決において、特許庁は、昭和八年八月十四日に登録された第二四五五六八号の商標を引用して、原告の前記商標は、これと紛わしく、商標法第二条第一項第九号に該当するから、登録することができないものであるとしたものであるが、右引用商標は、別紙記載のように、縦長方形二重廓の内枠中央に、被いのある乗用三輪自転車と思われる図形を画き、その上部に出願人の会社名を欧文字ゴシツク体で弧状に配し、下部に「ATAX」のローマ字をゴシツク体で横書にし、かつ上記縦長方形二重廓の帯状内に附記的な文字及び図形を表わして構成されており、第四類石鹸を指定商品としているものである。

 三、審決は、次のような理由で違法である。

  (一) そもそも二個の商標が類似するかどうかは、取引の実際における経験則に照らし、世人をして混同誤認を生ぜしめる虞があるか否かが標準となり、その商標を組成する図形文字構図及び意匠等を総括した全体につき、離隔的に観察して判断すべきである。引用商標は、前述のように、南方ボルネオ、スマトラ、ジヤバ方面に使用されている乗合三輪自転車の図形を中央に配したものであつて、これを要部となし、「ATAX」なる文字は、他の欧文文字と共に、その周囲に配量されたものの一であり、この商標は、乗合自転車印なる呼称を生じ、原告の商標とは、何等混同を生ずるおそれはない。(大審院昭和五年(オ)第三四四三号判決参照)

  (二) 仮りに「ATAX」なる文字が、右商標の要部をなすとしても、その主要部として抽出されるものが、取引上他の部分に対し圧倒的実要価値を有し、他の部分が顧慮されることのない程度に至らない限り、単にその商標の組成上主要なりとする部分が類似するとの理由のみを以て、両商標は類似するものではなく、(大審院昭和四年(オ)第一一〇四号判決参照)引用商標は、中央に大きく自転車の図形があり、僅かに下部の一隅に「ATAX」なる文字があるに過ぎず、取引上これが他の部分に対し、圧倒的な価値を有し、他の部分が顧慮されることのない程度とは認められない。

  (三) しかのみならず、文字の読み方において、引用商標の「ATAX」は「アタツクス」という称呼を生ずるのが自然であろうが、原告の商標「AJAX」は、ホーマーの「イリアツド」中の勇士の名をとつたもので、これが英語としての読み方は、既に「エージエツクス」と定まつており、「アタツクス」と類似混同のおそれはない。

  (四) 仮りに両商標の発音が類似するとしても、その外観及び観念を全然異にする本件の場合にあつては、これを目して類似商標と為すことができないものであり、若しこれを以つて類似商標と認定するには、更に一段の審理を遂げ、これを認定するにつき、特別の理由のあることを説明しなければならないのに、この点について何等の説明をも加えていない審決は、審理不尽理由不備の違法があるものである。

第三 被告の答弁

 被告代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因事実に対し、次のように述べた。

 一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、これを認める。

 二、同三の主張は、これを否認する。

  (一) 審決が引用した登録第二四五五六八号商標は、三輪自転車及び附記的文字、図形の外に、その下部に「ATAX」の文字が、世人の注意を強く引くように顕著に現わされており、しかも右の文字は、前記三輪自転車及び附記的文字、図形とは、特段関連的な性質を有するものではないから、右文字自体も、商標の要部をなすものである。

  (二) 次に読み方について、原告の商標「AJAX」は、普通欧語の常識で通俗的に読めば「アジヤクス」、ローマ字一字ずつをとつて読めば「エージエーエーエツクス」とそれぞれ称呼せられ、引用商標の要部たる「ATAX」は、同様に「アタツクス」、「エーテイエーエツクス」と称呼せられるから、両者が互にまぎらわしく、混同誤認のおそれがあることは明白である。

第四 証拠〈省略〉

 

 

 

 三、理  由

 

 一、原告主張請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

 二、原告は、その主張三の(一)、(二)において、審決が、引用登録商標の一部分にすぎない「ATAX」の文字をとつて、原告の商標「AJAX」と対比したことを非難しておるから、先ずこの点について判断する。審決が引用した登録第二四五五六八号商標が、縦長方形の二重の輪廓を持ち、中央に被いのある乗用三輪自転車の図形、その上部に出願人の名称であるN, V, BORNEO SUMATRA HANDEL MAATSCHAPPIJの文字を稍弧状に、その下部に「ATAX」のローマ字をゴシツク体で横書に記載し、なお二重の輪廓の内部に帯状に、附記的な文字及び図形を記載して構成されていることも、先に示したように、当事者間に争のないところである。(別紙図面参照)商標が、右に述べたような図形及び文字で構成されている場合、取引者、需要者が、この商標を使用している商品を認識し、指定する場合、右図形及び文字によつて構成される商標全体によることはもちろん、右商標の中央部に、はつきり記載されている、原告のいわゆる乗合自転車によることが甚だ多いことは、いうをまたないが、それと同時に、右図形の下に、やはりはつきりと記載されている「ATAX」の文字によつてこれを認識し、なかんづく、右商品を指称するに、「ATAX」の文字から生ずる称呼のみによることも、決して少くないことは、右商標の構成を、取引の実際における経験則に照らして考察した場合、当然に解釈せられるところであつて、この意味において「ATAX」の文字は、引用商標における要部をなすものと認められる。

 そして商標におけるいわゆる要部が数個ある場合、これら各要部は、それぞれ商標類否の判定につき、考慮の対象となり、必ずしも、ある部分が他の部分に対して、圧倒的価値を有し、他の部分が顧慮されることがない程度に至ることを必要とするものとは解されない。けだし他の部分に圧倒せられ顧慮されることがないような部分は、よし商標の構成の一部をなしていても、それを要部と解することはできないであろうし、すでに要部をなす以上、他の要部に対する価値いかんにかゝわらず、これを使用する商品の識別、指定について、決定的な役割を果すことは疑のないところだからである。

 して見れば審決が引用登録商標における「ATAX」の文字をとつて、原告の商標と対比したことは、非難に値しない。

 三、次ぎに原告の商標「AJAX」と引用商標の要部「ATAX」の類否を判断するに、両者はひとしく四字のローマ字からなり、その第一、第三、第四の文字を共通にし、しかも唯一の相違点である第二文字のJとTとは、一見見誤りやすい字形をなし、結局両者は外観上甚だしく類似していること明白であるばかりでなく、その称呼から見ても、前者は「エイジヤクス」「アジヤクス」、後者は「エイタツクス」「アタツクス」の称呼を生ずるのが、普通であるものと解され、彼此互にまぎらわしく、その間混同誤認の虞あることも、また明らかである。原告代理人は、原告の商標は、ホーマーの「イリアツド」中の勇士「AJAX」の名を取つたもので、その読み方は「エイジエツクス」と一定せられ、「アジヤクス」と読まれることはないと主張するが、右商標の指定商品である石鹸の一般の取引者需要者が、常にそのような読み方をなし、「アタツクス」、「エイタツクス」と呼ばれる引用商標による商品と、その出所について混同誤認を生ずるおそれがないとの事実は、これを認めるに足りる証拠はない。

 四、以上、両商標の要部の外観、称呼の類似が、引いて商標の類似を来たし、これを使用する商品の認識、指定について混同誤認を生ずる虞のあることは明かであるから、審決が原告の商標は、商標法第二条第一項第九号に該当し、登録することができないとしたのは適法であつて、原告の本訴請求は棄却を免れない。

 よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

 (裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

 

事件番号 昭28(行ナ)13号

事件名 商標登録願拒絶査定審決取消請求事件

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