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裁判年月日 平成 7年10月19日 裁判所名 東京高裁 

事件番号 平6(行ケ)78号

事件名 審決取消請求事件

 

主文

 

 特許庁が平成5年審判第5843号事件について平成6年2月14日にした審決を取り消す。

 訴訟費用は被告の負担とする。

 

 

 

 

事実

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 原告

  主文と同旨の判決

 二 被告

  「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二 請求の原因

 一 特許庁における手続の経緯

  被告は、名称を「自走式オーガ装置」とする特許第1615559号の発明(昭和58年4月26日出願、昭和63年8月1日出願公告、平成3年8月30日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告は、平成5年3月25日、被告を被請求人として、特許庁に対し、本件発明について無効審判の請求をし、平成5年審判第5843号事件として審理された結果、平成6年2月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年3月14日原告に送達された。

 二 本件発明の要旨

  第1の油圧シリンダ装置3によって俯仰されるブーム4と、ブーム4先端に軸支され、第2の油圧シリンダ装置5によって俯仰されるアーム6と、アーム6の先端に軸支され、第3の油圧シリンダ装置7によって四節リンク機構を介して俯仰される、アーム6より短かいブラケット8とから成る可動腕機構を、自走車体に対して旋回可能且つ俯仰可能に配設し、可動腕機構のブラケット8から削孔機9を1点軸支で揺動自在に垂下した自走式オーガ装置。(別紙図面1参照)

 三 審決の理由の要点

  1 本件発明の要旨は前項記載のとおりである。

  2 請求人(原告)の主張

  (1) 本件発明は、その特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(本訴における甲第9号証。BAUMASCHINE UND BAUTECHNIK-19.jahrgang,Heft,August 1972。以下「甲第9号証」という。)に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされていて、同法123条1項1号に該当し、無効とすべきである。

  (2) 本件発明の明細書の記載では、発明の目的に関係する作用と特許請求の範囲に記載されている発明の構成との因果関係及び四節リンク機構の点に関する発明の構成と効果との因果関係について、合理的な説明がなされておらず、また、その効果の記載それ自体にも不明瞭な点があるから、本件特許は、特許法36条3項又は4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされていて、同法123条1項3号に該当し、無効とすべきである。

  3 請求人の主張に対する判断

  (1) 請求人の主張(1)について

  〈1〉 請求人は、甲第9号証に記載の装置(別紙図面2参照。但し、同図面の符号は便宜付したもの。)を当業者の技術常識をもってみると、符号3の部分及び符号4の部分がそれぞれ本件発明にいう第1の油圧シリンダ装置3及びブーム4に相当していて、後者の部分が前者の部分によって俯仰されること、符号5の部分及び符号6の部分がそれぞれ本件発明にいう第2の油圧シリンダ装置5及びアーム6に相当していて、後者の部分が前者の部分によって俯仰されること、符号7の部分が本件発明にいう第3の油圧シリンダ装置7に相当していて、符号8の部分がこれによって俯仰され、符号6の部分より短いアーム状の部材であること、これら符号4、6、8の部分から可動腕機構が構成されて、この可動腕機構が自走車体に対して俯仰可能に配設されていること、符号9の部分が本件発明にいう削孔機9に相当していて、これが可動腕機構の符号8の部分から垂下されていることが少なくとも明らかである、と述べ、明細書の記載において、ブラケット8の構成が特にアーム6を基準にして長さのみを限定することにより言い表されていることからみて、本件発明にいうブラケットとは、アームと同類のものであって、その長さがアームより短い部材というほどのものに解することができるから、符号6の部分より短いアーム状の部材である甲第9号証における符号8の部分は、本件発明にいうブラケットに相当するものであるとみることができる、と述べている。

  〈2〉 しかし、「ブラケット」とは、一般に、フレームや機械本体から突出していて、軸、てこなどを支える目的に用いられる部分、または部品をいい、腕木、腕金ともいうものであって(「機械用語辞典」機械用語辞典編集委員会編 株式会社コロナ社・昭和54年7月25日7版発行 47頁右欄8行ないし12行参照)、本件発明における「ブラケット」もその明細書及び図面の記載をみると例外であるとは認められない。ブーム4とアーム6は本体であり、ブラケット8はこの本体に突出して設けられた部品であると認められる。一方、甲第9号証における図22の写真に示されている符号8の部分は、符号6の部分と同様に本体の一部であるアームであるとみるのが相当である。そして、甲第9号証には、符号8の部分がブラケットであるとする記載は一切ない。

  そうすると、請求人の述べる「符号7の部分が本件発明にいう第3の油圧シリンダ装置7に相当していて、」「明細書の記載において、ブラケット8の構成が特にアーム6を基準にして長さのみを限定することにより言い表されていることからみて、本件発明にいうブラケットとは、アームと同類のものであって、その長さがアームより短い部材というほどのものに解することができるから、符号6の部分より短いアーム状の部材である甲第9号証における符号8の部分は、本件発明にいうブラケットに相当するものであるとみることができる」に理由があるとすることはできない。

  よって、甲第9号証に記載の装置は、「第1の油圧シリンダ装置によって俯仰されるブームと、ブーム先端に軸支され、第2の油圧シリンダ装置によって俯仰されるアームと、アームの先端に軸支され、第3の油圧シリンダ装置によって俯仰される、アームより短いブラケットとからなる可動腕機構を、自走車体に対して俯仰可能に配設し、可動腕機構のブラケットから削孔機を1点軸支で揺動自在に垂下した自走式オーガ装置。」の構成を備えている点で本件発明と一致する、という請求人の主張は採用できない。

  本件発明においては、アーム6より短いブラケット8からなる可動腕機構の構成並びに該可動腕機構が第3の油圧シリンダ装置7によって四節リンク機構を介して俯仰される構成及び削孔機9を1点軸支で揺動自在に垂下させた構成とが総合されて、明細書に記載されるように、熟練者でなくとも比較的簡単な操作によって効率よく削孔作業を進めることができる、などの効果を奏するものと認められる。

  したがって、削孔機を支持部材から垂下させた状態で作業を行う地盤を鉛直方向に削孔する削孔作業用装置においては、その削孔機を支持部材に1点軸支で揺動自在で取り付けることが甲第2号証ないし第6号証(本訴における甲第10号証ないし第14号証)から周知であるといえても、建設作業用装置の作業機器を操縦するための可動腕機構において、作業機器を取り付ける部分の可動腕を俯仰させるようにする場合に、四節リンク機構を介して行うようにすることが油圧ショベル等各種建設作業用装置において甲第7号証ないし第11号証(本訴における甲第15号証ないし第19号証)から周知であるといえても、また、自走式オーガ装置等自走車体を備えた建設作業用装置において、削孔機作業用機器が取り付けられる可動腕機構を自走車体に対して旋回可能に設けるようにすることが甲第2号証(本訴における甲第10号証)等から周知であるといえても、本件発明は、甲第9号証に記載された発明及び上記の周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの、とすることはできない。

  (2) 請求人の主張(2)について

  〈1〉 本件発明に係る出願の第1図では、たまたまアーム6とブラケット8が、それらの上方傾斜限界に描かれてあるものと解されるが、この傾斜の程度を適宜組み合わせれば、例えば、ブラケット8の上方傾斜限界において、ブーム4に対するアーム6の位置関係を決めるシリンダーロッド5aをシリンダ5より常に充分伸長させ、上方限界に達しない状態にしておけば、それまでブラケット8を吸収していたずれ量をアーム6による吸収に置き換えるという操作が常に行えることになる。加えるに、ブーム、アーム、ブラケットの3部材を共に傾動するか、必要な2部材を傾動するか、あるいは1部材のみを傾動するか、を臨機応変に選択することも有効であると理解できる。この程度のことは当業者であれば本件発明の明細書又は図面の記載を見れば適宜想到できることであって、第1図の記載をもって、本件発明の明細書又は図面の記載に本件特許を無効にすべき理由があるとすることはできない。

  よって、本件発明の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的又は構成が記載されておらず、特許請求の範囲にも、必須不可欠の構成要件が記載されていない旨の請求人の主張は採用できない。

  〈2〉(a) 本件発明の明細書には、「本発明において、削孔機9はブラケット8に1点軸支で揺動自在に下向きに垂下されているから、外力を加えて傾動させない限り、自然と鉛直姿勢が保たれる。従って、本発明においては、削孔機9を下方へ付勢しながら削孔を行うときに、削孔機9の鉛直状態を維持するための操作が不要である。本発明において、ブラケット8を俯仰させる第三の油圧シリンダ装置7は、削孔機9の鉛直状態を維持させるためではなく、以下に述べる通り、削孔機9を同一平面位置に位置させるために用いられるものである。まず、第一の油圧シリンダ装置3の作動により、ブーム4を下方に傾動させて、削孔機9を下方に付勢しつつ削孔を行っていくと、削孔が進んでブーム4が下に下がるにつれて、削孔機9の平面位置がずれてくることになる。しかし、実際には、削孔機9は、削孔した孔内にその先端部が拘束されているので、上記のような移動は生ぜず、削孔機9へ無理な力が加わることになる。上記削孔機9へ加わる外力は、第二の油圧シリンダ装置5の作動により、アーム6を傾動させ、ブーム4からアーム6の直線長さを短かくしてやることによって吸収することができる。しかし、ブーム4及びアーム6は比較的長寸であるので、比較的小さな傾動量でも、削孔機9の平面位置の移動量が大きく、調整をとりにくい。そこで本発明では、第三の油圧シリンダ装置7とブラケット8を設けているもので、このブラケット8は、アーム7に比して短いので、その傾動量に対する削孔機9の平面位置移動量が比較的小さく、前記削孔機9に加わる外力吸収のための調整をとりやすいものである。」(本件発明の公告公報3欄8行ないし40行)と記載されており、この記載によれば、「ブラケット8による削孔機の繊細な姿勢制御」の記載が、請求人の主張するように、本件発明の目的と関係する基本的技術内容と矛盾しており、実体不明で不可解なものであるとは認められない。

  (b) 四節リンク機構のみの作用については、シリンダーの単位ストローク長さ当たりのブラケットの回転角度の変異は大きいが、微操作性は、ブラケット8と四節リンク機構の両者の作用が相まって奏されるものと解される。また、連結点が多くなることの不利よりも、四節リンク機構を採用することにより応力伝達を確実にして安定性を増すことの利益の方が大きいものと解される。「ブラケット8を第3の油圧シリンダ装置7で作動制御する場合に四節リンク機構を介在させる構成を採用したことにより、ブラケットの小さな制御動作も安定的に行えるとの効果を奏する」という明細書の記載のとおりである。したがって、当業者が本件発明を容易に実施することができる程度にその発明の効果が記載されていない、という請求人の主張は採用できない。

  〈3〉 以上のとおりであるから、本件発明の明細書に請求人の主張(2)の記載不備は認められない。

  4 よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

 四 審決を取り消すべき事由

  審決の理由の要点1、2(1)(2)は認める。同3(1)〈1〉は認める。同3(1)〈2〉は争う(但し、甲第9号証には、符号8の部分がブラケットであるとする記載がないことは認める。)。同3(2)〈1〉は認める。同3(2)〈2〉〈3〉は争う。同4は争う。

  審決は、本件発明の進歩性の判断を誤り、かつ、本件明細書には記載不備がない旨誤って認定、判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

  1 進歩性の判断の誤り(取消事由1)

  審決は、本件発明におけるブラケットの技術的意味を誤認し、本件発明と甲第9号証記載の発明との対比判断を誤った結果、本件発明は甲第9号証記載の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない旨誤って判断したものである。

  (1) 本件明細書の特許請求の範囲中の「第1の油圧シリンダ装置3によって俯仰されるブーム4と、ブーム4先端に軸支され、第2の油圧シリンダ装置5によって俯仰されるアーム6と、アーム6の先端に軸支され、第3の油圧シリンダ装置7によって四節リンク機構を介して俯仰される、アーム6より短かいブラケット8とから成る可動腕機構」との記載、発明の詳細な説明中の「ブーム、アーム、及びブラケットから成る可動腕機構」(甲第2号証5欄10行、11行)、「ブーム4、アーム6、ブラケット8の各部材の制御が容易となり、これらの部材から成る可動腕機構の駆動力」(同5欄25行ないし27行)との各記載によれば、本件発明における可動腕機構は、ブーム4、アーム6、ブラケット8の三つの可動腕部材からなっていることが理解できる。また、本件明細書の記載によれば、これら三つの可動腕部材のうち、自走車体に設けられている後端側の可動腕部材をブーム、この後端側の可動腕部材の先端に取り付けられている中間の可動腕部材をアーム、この中間の可動腕部材に取り付けられ、削孔機を取り付けている先端側の可動腕部材をブラケットと称しているとみることができる。そして、「第3の油圧シリンダ装置7によって四節リンク機構を介して俯仰される、アーム6より短かいブラケット8」(特許請求の範囲)、「アーム6の先端には、アーム6に比して十分短いブラケット8をピン19によって枢着し」(甲第2号証4欄29行、30行)との記載によれば、ブラケット8の構成が特にアームを基準にして長さのみを限定することにより言い表されていることからみて、本件発明にいうブラケットは、少なくとも、本件発明にいうアームすなわち中間の可動腕部材と長さは異なるにしても同類のものであると解することができる。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の〈作用〉の項における、特に、「このブラケット8は、アーム6に比して短かいので、その傾動量に対する削孔機9の平面位置移動量が比較的小さく、前記削孔機9に加わる外力吸収のための調整をとりやすいものである。」(甲第2号証3欄36行ないし40行)との記載によれば、可動腕部材としてのブラケットは、可動腕部材としてのアームに比べて腕の長さが短い点に技術的意義のあることが明らかであり、この点にこそ本質となる属性が存在するものとみることができる。したがって、削孔機を取り付けている先端側に配置されていて、中間の可動腕部材よりも短い可動腕部材でありさえすれば、本件発明にいうブラケットの本質を具備しているものとみることができ、このような先端側に配置される可動腕部材をブラケットと称するかアームと称するかにより区別することは、技術的に不合理である。

  したがって、本件発明におけるブラケットについて、本件明細書の記載によらずに、本体であるブーム4やアーム6に突出して設けられた部品であるとした審決の認定は誤りである。

  (2) 一方、甲第9号証記載の装置を当業者が技術常識をもってみると、符号4の部分、符号6の部分及び符号8の部分がそれぞれ可動腕部材をなし、甲第9号証記載の装置は、これら三つの可動腕部材からなる可動腕機構を備えていることが明らかである。そして、符号4の部分の可動腕部材、符号6の部分の可動腕部材、符号8の部分の可動腕部材がそれぞれ後端側の可動腕部材、中間の可動腕部材、先端側の可動腕部材であることも明らかである。これら可動腕部材のうち、特に先端側の可動腕部材8を当業者の技術常識をもってみると、可動腕部材8には、符号9の部分すなわち本件発明にいう削孔機が取り付けられていることが明らかである。そして、この先端側の可動腕部材8は、中間の可動腕部材6よりも短いことが図22の写真の描写に照らして明らかであるから、結局、本件発明にいうブラケットの本質的な属性を備えているといえ、本件発明にいうブラケットに相当するものであるとみることができる。

  (3) 以上のとおり、甲第9号証における符号8の部分は、本件発明にいうブラケットに相当するものであるとみることができ、これを否定した審決の認定は誤りである。

  そうであれば、「甲第9号証に記載の装置は、『第1の油圧シリンダ装置によって俯仰されるブームと、ブーム先端に軸支され、第2の油圧シリンダ装置によって俯仰されるアームと、アームの先端に軸支され、第3の油圧シリンダ装置によって俯仰される、アームより短いブラケットとからなる可動腕機構を、自走車体に対して俯仰可能に配設し、可動腕機構のブラケットから削孔機を1点軸支で揺動自在に垂下した自走式オーガ装置。』の構成を備えている点で本件発明と一致する、という請求人の主張は採用できない。」とした審決の判断は誤りである。

  また、甲第9号証に記載の装置は、上記のような本件発明と一致する構成を備え、本質的な点で本件発明と構成が一致している以上、本件明細書に記載されている本件発明の効果(甲第2号証6欄10行ないし22行)と同様の効果を当然に奏することができるものである。

  以上のとおりであって、本件発明は、甲第9号証及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

  2 明細書の記載不備の看過(取消事由2)

  本件明細書には、当業者が本件発明を容易に実施することができる程度にその発明の効果が記載されていないにもかかわらず、審決は、この点の記載に不備はない旨誤って認定、判断したものである。

  (1) 本件明細書には、「削孔機のスクリューヘッドは中心に突出芯が無いので、穿孔開始時に削孔機の先端を地面の所定位置に垂直に当接して回転させても、地面の土壌条件によっては、即ち、土質の硬さや粒子が不均一の場合は、地表より50cm乃至1m位の深さに削孔機が突入するまでは、スクリューヘッドの形状のために削孔機が芯ずれを起こすが、ブラケット8による削孔機の繊細な姿勢制御によって削孔機に所望の穿孔作用が付与出来る。」(甲第3号証2頁12行ないし末行)と記載されているが、「ブラケット8による削孔機の繊細な姿勢制御」とは、削孔機の姿勢が土壌からの力により変化しようとする際に、ブラケット8により削孔機に対してどのような方法で、どのような穿孔作用を付与してその姿勢の変化を修正し、削孔機の芯ずれを防ぐようにした制御であるのかその中身が明らかでない。したがって、本件発明の効果に関する上記記載は、その技術内容を合理的に理解するのは困難であり、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の効果が記載されていない。

  審決は、本件明細書中の「本発明において、削孔機9はブラケット8に・・・外力吸収のための調整をとりやすいものである。」(甲第2号証3欄8行ないし40行)との記載を引用して、原告の主張するような不明点あるいは矛盾点は認められないとしているが、上記記載の技術内容は、前記甲第3号証2頁12行ないし末行に記載の技術内容とは全く無関係のものであるから、審決の上記認定、判断は誤りである。

  (2) 本件明細書中の「ブラケット8は四節リンク機構を介して第3の油圧シリンダ装置7で作動制御されるので、ブラケット8の小さな制御動作も安定的に遂行出来」(甲第3号証3頁1行ないし3行)との本件発明の効果は、四節リンク機構に関する本件発明の構成との関係において合理的に理解するのが困難であり、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の効果が記載されていない。

  この点について、審決は、「微操作性は、ブラケット8と四節リンク機構の両者の作用が相まって奏される」結果、「ブラケットの小さな制御動作も安定的に行える」という効果を奏するという趣旨の判断を示しているが、「ブラケットの小さな制御動作も安定的に行える」という効果は、四節リンク機構固有の効果であって、「ブラケット8と四節リンク機構の両者の作用が相まって微操作性が奏される」こととの関連で発揮する効果ではないことが明白であるから、審決の上記認定、判断は、本件明細書の記載内容と整合しないものであって、誤りである。

  (3) 本件明細書中の「四節リンク機構の作用で確実に位置制御されて、シリンダ7の上下方向のぶれが完全に抑制できる」(甲第3号証3頁15行ないし17行)との本件発明の効果は、四節リンク機構に関する構成との因果関係を合理的に理解するのが困難であり、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の効果が記載されていならかでない。したがって、本件発明の効果に関する上記記載は、その技術内容を合理的に理解するのは困難であり、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の効果が記載されていない。

  この点について、審決は、「連結点が多くなることの不利よりも、四節リンク機構を採用することにより応力伝達を確実にして安定性を増すことの利益の方が大きいものと解される。」との認定、判断を示しているが、当業者の技術常識に照らしても理解し難いものであって、誤りである。

第三 請求の原因に対する認否及び反論

一 請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。

二 反論

 1 取消事由1について

  本件明細書及び図面の記載を当業者が見れば、本件発明におけるブラケット8は、作業機(削孔機)を取り付けるために機械本体の一部であるアーム6に取り付けた部材と解釈できるはずであり、甲第17号証及び第19号証の記載からも、「ブラケット」なる用語が、審決の認定のとおり、通常の概念のもとに用いられていることは明白である。

  次に、先端の作業機を油圧駆動の可動腕機構に取り付けた建設機械にあっては、先端作業機の作業域に高度又は深さを安定的に付与する場合、一般的には“三段ブーム”と称している、第1ブーム、第2ブーム及び第3ブーム(第1アーム、第2アーム及び第3アーム)で機械本体としての可動腕機構を構成すること、また、先端作業機にそれ程の高度、深度のバラエティが必要でない場合には、可動腕機構を、本件発明の可動腕機構のように、一般的には“二段ブーム”と称しているブームとアームの連結体とすることが、本件特許出願前に周知であり、当業界では、甲第9号証の第1ブーム4と第2ブーム6との2本のブームが本件発明のブーム4の1本に相当すると理解されていたのである。

  上記のような当業界での技術常識に基づいて甲第9号証を見ると、符号4の部材が第1ブーム、符号6の部材が第2ブーム、そして符号8の部材がアームであり、符号8の部材が先端に作業機取付用のピン孔を備えていることからも、符号8の部材が機械本体の一部を構成するアームであることは明らかである。また、オーガ9は機械本体の一部であるアーム8の先端に直接取り付けられていることが明白であるから、甲第9号証記載の機械は本件発明のブラケット8を全く欠如していることが明白である。したがって、本件発明における構成要素として見れば、ブラケットとアームとが別異のものであることも自明である。

  したがって、原告主張の無効理由1に対する審決の認定、判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

 2 取消事由2について

  本件明細書及び図面の記載を当業者が見れば、削孔機の姿勢制御とは、削孔機の所望姿勢に対するずれをただすことを意味することは自明であり、繊細な制御とは、社会一般通念から微妙な制御を意味することも自明である。したがって、「ブラケット8による削孔機の繊細な姿勢制御」ということの技術内容は、甲第2号証3欄15行ないし40行の記載から、当業者にとっては誤りなく理解できるものである。

  また、本件明細書及び図面の記載を当業者が見れば、「ブラケット8は四節リンク機構を介して第3の油圧シリンダ装置7で作動制御されるので、ブラケット8の小さな制御動作も安定的に遂行出来、」なる記載において、「ブラケット8の小さな制御動作」は、ブラケット8がアームより短いためであり、「安定的に遂行出来」は、四節リンク機構を採用したための応力伝達を確実にして安定性を増すことを可能とした、と理解できるはずである。

  さらに、建設機械に多用されている油圧シリンダーは、伸縮方向には強いがシリンダーの半径方向には弱いこと、したがってシリンダー内のロッドが延出した状態ではシリンダーの半径方向の応力に対してロッドとシリンダーとの相互間にぶれが生じやすいことは当業者の技術常識であり、本件特許において、四節リンク機構を介して油圧シリンダーを伸縮させればシリンダーのぶれが防止でき、かつ機構学的にも先端作業機への応力伝達が確実で安定的に遂行できることは、特別の説明を待つまでもなく、本件明細書及び図面の記載から当業者が直ちに理解できることである。

  以上のとおりであるから、本件明細書に原告主張の記載不備はなく、この点についての審決の認定、判断に誤りはない。

第四 証拠

  証拠関係は、記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

 

 

 

 

理由

 

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の取消事由1の当否について検討する。

 1 まず、本件発明における「ブラケット」の技術的意味ないし内容について検討する。

  (1) 「ブラケット」について、甲第23号証(「機械用語辞典」機械用語辞典編集委員会編 株式会社コロナ社・昭和54年7月25日7版発行)には、「フレームや機械本体から突出していて、軸、てこなどをささえる目的に用いられる部分、または部品をいう。腕木、腕金ともいう。」と定義され、甲第28号証(「図解機械用語辞典」工業教育研究会編 日刊工業新聞社・昭和57年1月25日初版22刷発行)には、「〈1〉腕木、腕金、受金、フレームの本体や壁などから突き出して軸、てこ、たな、照明具そのほかの部品をささえる金具、〈2〉カッコ( )、〔 〕など」と定義されていることが認められる。

  (2) ところで、明細書の技術用語は学術用語を用いること、用語はその有する普通の意味で使用することとされているから(特許法施行規則24条、様式29備考7、8)、明細書の技術用語を理解ないし解釈するについて、辞典類等における定義あるいは説明を参考にすることも勿論必要ではあるが、それのみによって上記理解ないし解釈を得ようとするのは相当でなく、まず、当該明細書又は図面の記載に基づいて、そこで用いられている技術用語の意味あるいは内容を理解ないし解釈すべきであることはもとより当然のことである。

  そこで、本件明細書(甲第2号証及び第3号証)についてみると、本件明細書には、次のような記載があることが認められる(但し、下線は当裁判所が付したものである。)。

  (a) 「第1の油圧シリンダ装置3によって俯仰されるブーム4と、ブーム4先端に軸支され、第2の油圧シリンダ装置5によって俯仰されるアーム6と、アーム6の先端に軸支され、第3の油圧シリンダ装置7によって四節リンクを介して俯仰される、アーム6より短かいブラケット8とから成る可動腕機構を、自走車体に対して旋回可能且つ俯仰可能に配設し、可動腕機構のブラケット8から削孔機9を1点軸支で揺動自在に垂下した自走式オーガ装置。」(甲第3号証、特許請求の範囲の記載)

  (b) 「上記削孔機9へ加わる外力は、第二の油圧シリンダ装置5の作動により、アーム6を傾動させ、ブーム4からアーム6の直線長さを短かくしてやることによって吸収することができる。しかし、ブーム4及びアーム6は比較的長寸であるので、比較的小さな傾動量でも、削孔機9の平面位置の移動量が大きく、調整をとりにくい。そこで、本発明は、第三の油圧シリンダ装置7とブラケット8を設けているもので、このブラケット8は、アーム6に比して短かいので、その傾動量に対する削孔機9の平面位置移動量が比較的小さく、前記削孔機9に加わる外力吸収のための調整をとりやすいものである。」(甲第2号証3欄28行ないし40行)

  (c) 「以上のように、本発明では、ブーム4、アーム6又はブラケット8のいずれか二者の動きを制御するだけで削孔機9に対する付勢作業及び平面位置調整作業が行えるものである。」(甲第2号証4欄4行ないし7行)

  (d) 「アーム6の先端には、アーム6に比して十分短かいブラケット8をピン19によって枢着し、このブラケット8の先端には、削孔機9をピン20によって1点軸支で揺動自在に垂下した。」(甲第2号証4欄29行ないし32行)

  (e) 「ブーム、アーム、及びブラケットから成る可動腕機構の適切な調整の下での駆動によりスクリュー9bは鉛直線上での削孔が達成出来た。」(甲第2号証5欄10行ないし13行)

  (f) 「削孔機9の作動中は、削孔機の軸支点に対するブラケット8の角度関係の制約が無く、軸支点20の平面位置関係のみの調整制御で十分となったため、ブーム4、アーム6、ブラケット8の各部材の制御が容易となり、これら部材から成る可動腕機構の駆動力がスクリュー9bに押し上げ力として有效に利用出来、鉛直下方へ向う極めて大きな力をスクリュー9bに付与することができ、削孔機を飛躍的に向上させることが可能となった。」(甲第2号証5欄22行ないし6欄1行)

  本件明細書の上記各記載及び図面第1図(別紙図面1参照)によれば、本件発明における可動腕機構は、自走車体2の上部の旋回部1に設けられている後端側の可動腕部材であるブーム4、ブーム4の先端に取り付けられている中間の可動腕部材であるアーム6、その一端をアーム6に、他端を削孔機9に連結している先端側の可動腕部材であるブラケット8の三つの腕部材よりなるものであって、ブラケット8は腕部材の一つとして用いられており、ブーム4及びアーム6と同様に、削孔機9に対する付勢作業及び平面位置調整作業を行うものであること、ただ、ブーム4及びアーム6は比較的長寸であるので、比較的小さな傾動量でも、削孔機9の平面位置の移動量が大きく、調整をとりにくいが、ブラケット8は、アーム6に比して短いので、その傾動量に対する削孔機9の平面位置移動量が比較的小さく、削孔機9に加わる外力吸収のための調整をとりやすいという差異が存するものと認められる。すなわち、ブラケット8は、ブーム4及びアーム6とは、その配置位置及び腕部材としての長さにおいて相違しており(ブラケット8はアーム6より短い)、それに伴って作用的に異なる点はあるが、共に可動腕機構を構成する可動腕部材として、削孔機9に対する付勢作業及び平面位置調整作業を行うものである点で共通しているものである。

  そして、ブラケット8が、フレームや機械本体から突出していて、軸、てこなどを支える目的に用いられる部分であるとは認め難く、上記(1)の辞典類において定義づけられているような技術的意味ないし内容を有するものとは認められない。

  したがって、本件発明におけるブラケット8について、上記甲第23号証に定義づけられているようなものであって、ブーム4とアーム6は本体であり、ブラケット8はこの本体に突出して設けられた部品であるとした審決の認定は誤りというべきである。

 2 ところで、甲第9号証の図22(別紙図面2参照)には、「油圧シリンダ装置3によって俯仰される符号4の部分の可動腕部材と、符号4の可動腕部材の先端に軸支され、油圧シリンダ装置5によって俯仰される符号6の部分の可動腕部材と、符号6の可動腕部材の先端に軸支され、油圧シリンダ装置7によって俯仰される、符号6の可動腕部材より短い符号8の部分の可動腕部材とからなる可動腕機構を、自走車体に対して俯仰可能に配設し、可動腕機構の符号8の可動腕部材から削孔機9を垂下した自走式オーガ装置。」が記載されているものと認められる。

  上記のとおり、符号8の部分は、その一端を符号6の可動腕部材に、他端を削孔機に連結している先端側の可動腕部材であり、中間にある符号6の可動腕部材より短いものであるから、符号8の可動腕部材は、本件発明におけるブラケット8に相当するものということができる。また、符号4の可動腕部材は本件発明におけるブーム4に、符号6の可動腕部材は本件発明におけるアーム6にそれぞれ相当するものと認められる。

 3 被告は、本件明細書及び図面の記載を当業者が見れば、本件発明におけるブラケット8は作業機(削孔機)を取り付けるために機械本体の一部であるアーム6に取り付けた部材と解釈できるはずであり、甲第17号証及び第19号証の記載からも、「ブラケット」なる用語が、審決の認定のとおり、通常の概念のもとに用いられていることは明白である旨主張している。

  しかし、本件明細書及び図面に開示されているものは、前記のとおり、削孔機に対する付勢作業及び平面位置調整作業を可動腕部材であるブーム4、アーム6、ブラケット8の三者よりなる可動腕機構により行うというものであるから、本件明細書及び図面の記載から、ブラケット8を、作業機(削孔機)を取り付けるためにのみ機械本体の一部であるアーム6に取り付けた部材と解釈することは到底できない。

  また、甲第17号証(実願昭50-005216号の明細書)記載の考案は油圧式掘削装置に係るものであり、同号証には、バケット5を補助アーム12に取り付けるために、バケットブラケット18を用いていることが記載されており、甲第19号証(実願昭53-107897号の明細書)記載の考案はバックホー形土木作業機における穿孔装置に係るものであり、同号証には、モーターCを備えた穿孔スクリューD(オーガ)をブームAに取り付けるために、ブラケット12を用いていることが記載されているが、前記のとおり、本件明細書及び図面によれば、本件発明におけるブラケット8は可動腕部材と認められるものであり、単なる取付具として用いられているものではないから、甲第17号証及び第19号証に上記のような記載があるからといって、本件発明のブラケット8も上記甲各号証に記載されているようなものであると解釈しなければならないものでないことは明らかである。

  したがって、被告の上記主張は採用できない。

  また被告は、先端の作業機を油圧駆動の可動腕機構に取り付けた建設機械にあって、先端作業機の作業域に高度又は深さを安定的に付与する場合、一般的には“三段ブーム”と称している、第1ブーム、第2ブーム及び第3ブーム(第1アーム、第2アーム及び第3アーム)で機械本体としての可動腕機構を構成すること、また、先端作業機にそれ程の高度、深度のバラエティが必要でない場合には、可動腕機構を、本件発明の可動腕機構のように、一般的には“二段ブーム”と称しているブームとアームの連結体とすることが、本件特許出願前に周知であり、当業界では、甲第9号証の第1ブーム4と第2ブーム6との2本のブームが本件発明のブーム4の1本に相当すると理解されていたとしたうえ、上記のような当業界での技術常識に基づいて甲第9号証を見ると、符号4の部材が第1ブーム、符号6の部材が第2ブーム、符号8の部材がアームであり、符号8の部材が先端に作業機取付用のピン孔を備えていることからも、符号8の部材が機械本体の一部を構成するアームであることは明らかであり、オーガ9は機械本体の一部であるアーム8の先端に直接取り付けられていることが明白であるから、甲第9号証記載の機械は本件発明のブラケット8を全く欠如していることが明白であって、本件発明における構成要素としてみれば、ブラケットとアームとが別異のものであることも自明である旨主張している。

  しかしながら、当業界において、甲第9号証の符号4の部材及び符号6の部材が本件発明のブーム4の1本に相当すると理解されていたことを認めるべき証拠はない。また、本件発明においては、可動腕機構を構成する三つの可動腕部材のうち、自走車体に設けられている後端側の可動腕部材を「ブーム」、「ブーム」の先端に取り付けられている中間の可動腕部材を「アーム」、その一端を「アーム」に、他端を削孔機に連結している先端側の可動腕部材を「ブラケット」とそれぞれ称しているものである。他方、甲第9号証記載の装置において、符号4の部材が自走車体に設けられている後端側の可動腕部材であり、符号6の部材が符号4の可動腕部材の先端に取り付けられている中間の可動腕部材であり、符号8の部材がその一端を符号6の可動腕部材に、他端を削孔機に取り付けられている先端側の可動腕部材であって、それぞれ独立した部材であることは明らかである。したがって、甲第9号証の符号4の部材及び符号6の部材が本件発明のブーム4の1本に相当するものと理解することはできない。さらに、本件発明におけるブラケット8と甲第9号証における符号8の部材は、一端を中間の可動腕部材に、他端を削孔機に取り付けられている先端側の可動腕部材であり、中間の可動腕部材より短いものであるという点で共通していて、両者に実質的な差異はないものと認められる。

  したがって、被告の上記主張は採用できない。

 4 以上のとおりであるから、本件発明と甲第9号証記載の発明とは、「第1の油圧シリンダ装置によって俯仰されるブームと、ブーム先端に軸支され、第2の油圧シリンダ装置によって俯仰されるアームと、アームの先端に軸支され、第3の油圧シリンダ装置によって俯仰される、アームより短いブラケットとからなる可動腕機構を、自走車体に対して俯仰可能に配設し、可動腕機構のブラケットから削孔機を垂下した自走式オーガ装置。」である点で一致するところ、本件発明においては、〈1〉ブラケットを四節リンク機構を介して俯仰させている、〈2〉可動腕機構を自走車体に対して旋回可能に配設している、〈3〉ブラケットから削孔機を垂下するのに1点軸支で揺動自在に取り付けている、のに対し、甲第9号証記載のものではこれらの点が明らかではない点で相違している。

  しかし、甲第15号証ないし第20号証によれば、建設作業用装置の作業機器を操縦するための可動腕機構において、作業機器を取り付ける部分の可動腕を俯仰させるようにする場合に、四節リンク機構を介して行うようにすることは、油圧ショベル等各種作業用装置において周知の技術であること、甲第10号証によれば、自走式オーガ装置等自走車体を備えた建設作業用装置において、削孔機作業用機器が取り付けられる可動腕機構を自走車体に対して旋回可能に設けるようにすることは周知の技術であること、甲第10号証ないし第14号証によれば、削孔機を支持部材から垂下させた状態で作業を行う地盤を鉛直方向に削孔する削孔作業用装置においては、その削孔機を支持部材に1点軸支で揺動自在に取り付けることは周知の技術であること、がそれぞれ認められる。

  そうとすると、本件発明は、甲第9号証記載の発明に上記各周知の技術手段を組み合わせることにより、当業者が容易に想到できたものと認めるのが相当である。

  そして、本件明細書に記載されている本件発明の効果は、本件発明の構成を採択することにより当然予測し得る程度のものであって、格別のものとは認められない。

  したがって、本件発明は、甲第9号証に記載された発明及び上記の周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない、とした審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由1は理由がある。

三 以上のとおりであるから、原告主張のその余の取消事由について検討するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

 

 

 

 

別紙図面1

〈省略〉

 

別紙図面2

〈省略〉

 

 

 

 

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