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裁判年月日 昭和52年 7月13日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決

事件番号 昭47(行ケ)18号

事件名 審決取消請求事件 〔極超短波用アンテナ事件〕

 

原告 

シーメンス・アクチエンゲゼルシヤフト 

 右代表者 

アレキサンデル・ザウツテル 

 

 同  ルードルフ・ザイベルト 

 右訴訟代理人  富村潔 

 右訴訟復代理人 高橋松次 

 

 被告 特許庁長官 熊谷善二 

 右指定代理人 高木久男 外二名 

 

主文

   特許庁が昭和四六年九月一日同庁昭和四〇年審判第六五四四号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。 

事実

第一 当事者の求めた裁判〈省略〉

第二 請求の原因

 原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

 (特許庁における手続)

 一 原告は、一九六一年七月三一日ドイツ連邦共和国にした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和三七年七月三一日名称を「極超短波用アンテナ」とする発明につき特許出願をし、昭和三九年一〇月九日これを実用新案法第八条第一項の規定により実用新案登録出願に変更したが、昭和四〇年六月一五日拒絶査定を受けたので、同年一〇月四日審判を請求した(昭和四〇年審判第六五四四号)ところ、特許庁は昭和四六年九月一日右請求は成り立たない旨、主文第一項掲記の審決をし、出訴期間につき附加期間を三か月と定め、その謄本は同年一〇月三〇日原告に送達された。

 (考案の要旨)

 二 本願考案の要旨は「波長に比べて極めて大きい開口を有するパラボラ反射鏡と、このパラボラ反射鏡の前方に配置され十分小さい開口を有する双曲線形補助反射器と、パラボラ反射鏡開口に比べて小さい開口を持ちパラボラ反射鏡の背面よりその頂点を通つて放射する一次放射器とを備え、前記双曲線形補助反射器の曲率はパラボラ反射鏡の開口に少なくともほぼ平らな同位相波面が生ずるように定められたアンテナにおいて、前記一次放射器はホーン型パラボラアンテナとして構成され、前記双曲線形補助反射器は一次放射器の近接放射界にあり、かつ、その開口は一次放射器の開口にほぼ等しいか、これより少し大きく選ばれていることを特徴とする極超短波用アンテナ」というにある。

 (審決の理由)

 三 右審決は次のように要約される理由を示している。

 本願考案は、その明細書及び図面(昭和四六年五月八日付手続補正書及び同年七月一四日付手続補正書による補正を含む。以下同じ。)の記載によつては極超短波用アンテナに関するものと認められるが、これが補助反射器とパラボラ反射鏡頂点との間隔をレーリ間隔の二分の一ないし一倍にとることと、補助反射器の口径をホーン型パラボラアンテナの口径にほぼ等しいか、もしくは少し大きくとることの二つの条件を満足することによつて、具体的に如何なる効果が、如何なる理由によつて、如何なる程度生じるか明らかでなく、その考案の詳細な説明の記載は実用新案法第五条第三項の規定を充たしていないものと認められるから、本願は拒絶すべきものである。

 (審決の取消事由)

 四 本願明細書記載の考案の詳細な説明によれば本願考案が審決指摘の二つの条件を満足することによる特有の効果を知ることができるのに、審決は、後記のように、右明細書の考案の詳細な説明は、その考案特有の効果を知ることができる程度の記載を缺き、実用新案法第五条第三項の規定する要件を充足していないと誤つて判断したものであるから、違法であつて、取消されるべきである。

  (一) 本願明細書の考案の詳細な説明(第六頁第三行ないし第六行)において、レーリ間隔はR=D2/2λと定義され、このようなレーリ間隔内において放射が平行ビームをなすことは当業者に周知であるから、補助反射器とパラボラ反射鏡頂点との間隔をレーリ間隔の二分の一ないし一倍にとること(本願考案のように補助反射器を一次放射器としてのホーン型パラボラアンテナの近接放射界に配置することと技術的には同一の意味を有する。)は、一次放射器の開口からの放射が平行束をなす範囲に補助反射器を配置することにほかならない。そして、この一次放射器の開口からの放射の平行束は、一次放射器の口径にほぼ等しいか、それより少し大きい口径を有する補助反射器に入射されるが、一次放射器からの放射が平行であることと、一次放射器と補助反射器の口径の関係とを考え合わせれば、一次放射器からの放射の殆んどすべてが補助反射器に入射し、補助反射器から側面への漏洩が極めて少なく、したがつて、アンテナの効率及び放射ダイヤグラムが良好となる効果が得られることが明らかである。

  (二) そして、従来公知のカセグレンアンテナは、本願明細書の考案の詳細な説明(第一頁第一四行ないし第二頁第五行)中「この種のアンテナ装置は業界ではカセグレンという名称で公知である。その際一次放射器は大体相対的に極めて開口の小さい漏斗状放射器として構成されており、その放射は著しく大きい双曲線形補助反射器に向けられている。この補助反射器から放射は本来のパラボラ反射鏡に達す。受信の場合には放射路は逆方向である。このアンテナは直接ホーン型放射器より饋電されたパラボラ反射鏡アンテナに対して機械的に著しく有利である。大きい反射鏡の焦点は補助反射器の後にある双曲線形補助反射器の焦点と一致し且つ双曲線形補助反射器の第二の焦点は一次放射器の位相中心と一致する。」との記載によつて明らかにされているように、補助反射器とパラボラ反射鏡頂点との間隔がレーリ間隔以上にわたり、換言すれば、補助反射器が一次放射器の近接放射界外にあるため、一次放射器の放射が平行束をなさず拡散する位置に補助反射器があり、また補助反射器の口径が一次放射器の口径に比して極めて大きい構成であるから、これとの対比により、本願考案は一次放射器の放射が平行であること、補助反射器からの漏洩が少ないこと、補助反射器の口径が相対的に小さいため、パラボラ反射鏡からの放射を乱さないことの諸点において、アンテナの効率、放射ダイヤグラムを如何なる程度に改良されたかを少くとも定性的に把握することができる。

  (三) 以上のとおりであるから、本願考案が審決指摘の条件を満足することによつて、具体的に如何なる効果が、如何なる理由によつて、如何なる程度生じるかについては、その明細書の考案の詳細な説明に取立てて記載がなくとも、当業技術者であれば、右明細書に基づき、容易に考案を実施することができる程度に、その効果を認識することができ、その意味において、本願考案の効果は右明細書の記載に内在するものというべきである。

第三 答弁〈省略〉

第四 証拠〈省略〉 

 

理由

 一 前掲請求の原因事実中、本願考案につき、出願から審決の成立に至るまでの特許庁における手続、考案の要旨及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

 二 そこで右審決の取消事由の存否について考察する。

  (一) 審決が本願考案を構成する条件の一つとして指摘する「補助反射器とパラボラ反射鏡頂点との間隔をレーリ間隔の二分の一ないし一倍にとること」と本願考案の要旨中「補助反射器はホーン型パラボラアンテナの近接放射界にあること」とが技術的に同一の意味を有することは当事者間に争いがなく、成立に争いのない〈証拠〉によれば、本願につき優先権の基礎となるべき最初の出願日たる一九六一年七月三一日以前の昭和三五年九月二一日国立国会図書館に受入れられ、以後公衆の閲覧に供されている「スペース・エアノーテツクス・アール・アンド・デイー・ハンドブツク(一九六〇―一九六一)」には、レーリ間隔においてはアンテナからの放射が平行束をなし、これを超えるとその放射が拡散する旨が記載されている(D六ないしD一二ページ)ことが認められるから、これらの事実を併わせ考えると、パラボラアンテナの近接放射界あるいはレーリ間隔においてはアンテナからの放射が平行束となり、これを超えるとその放射が拡散することを含む近接放射界あるいはレーリ間隔そのものの技術内容は、本願考案の出願当時、当業技術者に周知であつたものと推認することができる。したがつて、本願考案において、双曲線形補助反射器が一次放射器たるホーン型パラボラアンテナの近接放射界にあることはホーン型パラボラアンテナの放射が平行束をなす領域内に双曲線形補助反射器が置かれることを意味するが、本願考案の要旨によると、右補助反射器の開口は一次放射器の開口にほぼ等しいか、これより少し大きく選ばれているものであるから、一次放射器からの放射が補助放射器の側方に漏洩することは殆んどなく、一次放射器からの平行放射束の殆んどすべてが補助反射器に入射し、これに伴い、アンテナの効率及び放射ダイヤグラムが良好になる効果が生じることが認められる。

  (二) そして、成立に争いのない〈証拠〉によると、本願明細書中、考案の詳細な説明には、本願考案について「パラボラ反射鏡の背面よりその頂点を通つて放射し、パラボラ反射鏡開口に比べて小さい開口を持つホーン型反射器アンテナとして構成された一次放射器より放射され、またパラボラ反射鏡の開口に少なくとも略々平らな位相正面の生ずるように設計された湾曲を持つような、反射鏡の放射に用いられる著しく開口の小さい双曲線形補助反射器が前に配置されている、波長に比べて極めて大きい開口を持つパラボラ反射鏡より成る極超短波用アンテナに関するものである。」と記載され(第一頁第六ないし第一三行)、これと対比される従来のアンテナの構成として原告主張の前掲記載がある(第一頁第一四行ないし第二頁第五行)ことが認められる。もつとも、右記載上、従来のアンテナの構成は必ずしも明確とはいえないが、電気通信技術に関し世界的に著名な刊行物たることに争いのない甲第五号証の一(「プロシーデイングス・オブ・ジ・アイアールイー」第四六巻、一九五八年三月発行)、成立に争いのない甲第五号証の二によれば、右刊行物は発行直後の昭和三三年四月一四日国立国会図書館に受入れられ、以後公衆の閲覧に供されているものであるが、その2Aページには、パラボラ反射鏡と一次放射器と双曲線形補助反射器とから成るこの種のカセグレンアンテナとして、一次放射器がパラボラ反射鏡の開口に比して極めて開口の小さい漏斗状放射器として構成され、双曲線形補助反射器が一次放射器に比して開口を著しく大きく構成されたものが記載されていることが認められ、同刊行物の文献的地位から推せば、これに記載された右アンテナの構成は本願考案出願当時当業技術者に周知であつたものと認めるのが相当であり、したがつて、当時の技術水準においては当業技術者であれば、従来のアンテナに関する本願明細書の記載から容易に右刊行物記載の構成のものを読みとることができるものと考えられる。そして、従来のアンテナにおいて、双曲線形補助反射器の開口が一次放射器の開口に比し著しく大きく構成されていることは、一次放射器の放射を受けてパラボラ反射鏡に反射させる補助反射器の機能に徴すれば、補助反射器が一次放射器からの放射の平行である領域より前方の拡散領域に配置されていることを意味し、補助反射器は一次放射器の近接放射界外にあるもの、換言すれば、補助反射器とパラボラ反射鏡頂点との間隔はレーリ間隔以上にわたるものと解するのが相当である。

  (三) そうすると、本願考案は、一次放射器の放射が平行であること、補助反射器からの漏洩が少ないこと、補助反射器の口径が相対的に小さいため、パラボラ反射鏡からの放射を遮らず、かつ、乱さないことの諸点において、従来のアンテナに比し、アンテナの効率、放射ダイヤグラムが改良されたものであることが明らかであるとともに、その改良の理由、程度を、少なくとも定性的に、ある程度は定量的にも把握するのに特に困難はないということができる。

  (四) したがつて、審決が本願考案の構成として指摘する二つの条件を満足することによつて、具体的に如何なる効果が、如何なる理由によつて、如何なる程度生じるかについては、直接、本願明細書中に記載がないけれども、当業技術者において前記のような周知事項を前提にする限り、本願明細書の記載から、本願考案を容易に実施することができる程度に、認識することができるものと解され、その意味において、本願明細書の考案の詳細な説明が、審決のいうように、考案の効果の記載において、実用新案法第五条第三項の規定する要件を充たしていないとはいうことができないから、審決は、その点の判断を誤つたものというべく、違法たるを免れない。

 三 〈省略〉

(駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

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