判年月日 平成24年 1月16日
事件番号 平23(行ケ)10130号
事件名 審決取消請求事件
主文
特許庁が無効2010-800090号事件について平成23年3月10日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた判決
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被告の請求に基づき原告の特許を無効とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年8月11日,名称を「気泡シート及びその製造方法」とする発明につき特許出願をし(特願2003-320363号),平成20年5月16日,特許登録を受けた(特許第4126000号,特許公報は甲6)。
これに対し,被告は,平成22年5月12日,本件特許の請求項1~3につき無効審判を請求した(無効2010-800090号)。
その中で原告は平成22年9月27日付けで訂正請求をしたが(甲7),特許庁は,平成23年3月10日,「訂正を認める。特許第4126000号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は同年3月18日原告に送達された。
2 本件発明の要旨
【請求項1】(本件発明1)
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと,当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと,前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと,を有する三層構造を備え,内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって,キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり,ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみであり,前記バックフィルムの背面である,前記キャップフィルムと接しない面に,前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。」
【請求項2】(本件発明2)
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと,当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと,前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと,を有する三層構造を備え,内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって,キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり,ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみである気泡シートの製造方法であって,キャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成形する工程で成形するとともに,前記バックフィルムの背面である,前記キャップフィルムと接しない面に,前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成する工程を備えることを特徴とする気泡シートの製造方法。」
【請求項3】(本件発明3)
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと,当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと,前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィル厶と,を有する三層構造を備え,内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって,キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり,ライナーフィルムの原材料が,ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり,前記ライナーフィルムは,前記ブレンド物を溶融押し出しし,融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ,前記バックフィルムの背面である,前記キャップフィルムと接しない面に,前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。」
3 審決の理由の要点
(1) 刊行物1(特開平9-207260号公報)には,実質的に以下の発明(引用発明1A,引用発明1B)が記載されていることが認められる。
「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有し,他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有する表面保護粘着シートであって,真空成型により予め多数の凸部を形成した緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成し,さらにポリオレフィンフィルム31と,上記の含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを直接熱融着させてなる表面保護粘着シート。」(引用発明1A)
「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有し,他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有する表面保護粘着シートの製造方法であって,真空成型により予め多数の凸部を形成した緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成し,さらにポリオレフィンフィルム31と,上記の含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを直接熱融着させてなる表面保護粘着シートの製造方法。」(引用発明1B)
(2) 刊行物2(特許第3106227号公報)には,実質的に以下の発明(引用発明2)が記載されていることが認められる。
「オレフィン系重合体を9.1~50重量%含有する水添スチレン-ブタジエンランダム共重合体とオレフィン系重合体とのブレンド物からなる自己粘着性エラストマーシート。」
(3) 本件発明3と引用発明1Aの一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと,当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと,前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィルムと,を備え,内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって,キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂である気泡シート」である点。
【相違点1】
ライナーフィルムが,本件発明3は「一層」からなり「原材料が,ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物」であり「前記ブレンド物を溶融押し出しし,融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ」たものであるのに対し,引用発明1Aは「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものである点。
【相違点2】
層構造が,本件発明3は「三層構造」であるのに対し,引用発明1Aは「四層構造」である点。
【相違点3】
本件発明3は「前記バックフィルムの背面である,前記キャップフィルムと接しない面に,前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」と規定されているのに対し,引用発明1Aはそのような規定がされていない点
(4) 以下の理由により,本件発明3は,刊行物1及び刊行物2に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
① 相違点1について
引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,引用発明1Aの粘着剤についての「被着体に対して粘着力を有し,かつ使用後に被着体から容易に引き剥がすことができる」という課題を解決するための粘着剤として適するものであり,これは,「原材料が,ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物」といえ,さらに,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,溶融押し出しし,融着することで他のフィルムに直接設けられるものであることから,引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて,同じ機能を一層で代用できる,「一層」からなり「原材料が,ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物」であり「前記ブレンド物を溶融押し出しし,融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ」たものとすることは当業者が容易に想到し得ることである。
② 相違点2について
引用発明1Aにおいて,「一層」からなるライナーフィルムとすることは当業者が容易に想到し得ることであるから,引用発明1Aにおいて,層構造は「四層構造」から「三層構造」とすることも当業者が容易になし得ることである。
③ 相違点3について
引用発明1Aは,「真空成型により予め多数の凸部を形成した」ものであるところ,刊行物3(特開平10-315363号公報)に示されるように,真空成型により製造される在来のプラスチック気泡シートは,バックフィルムがキャップ内部に落ち込んだ形で成形されるのが通常であり,引用発明1Aにおいても,バックフィルムがキャップ内部に落ち込んだ形で成形される(すなわち,「バックフィルムの背面である,キャップフィルムと接しない面に,気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」ものとなっている。)と認められる。
したがって,相違点3は,実質的な相違点ではない。
④ 効果について
本件発明3の緩衝性や断熱性を損なわずに,接着剤層を積層あるいは塗布する手間をかけることなく,ライナーフィルム同士の粘着性と気泡シートの巻き戻し容易性の両立を図ることのできる気泡シートを提供することができるという効果は,引用発明1A,引用発明2及び周知慣用技術に基いて当業者が予測し得る範囲のものであって,格別顕著なものとは認められない。
(5) 本件発明1と引用発明1Aの一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと,当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと,キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられたライナーフィルムと,を備え,内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって,キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂である気泡シート」である点。
【相違点1′】
ライナーフィルムが,本件発明1は「一層」からなり「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものであるのに対し,引用発明1Aは「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものである点。
【相違点2′】
層構造が,本件発明1は「三層構造」であるのに対し,引用発明1Aは「四層構造」である点
【相違点3′】
本件発明1は,「前記バックフィルムの背面である,前記キャップフィルムと接しない面に,前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」と規定されているのに対し,引用発明1Aはそのような規定がされていない点
(6) 以下の理由により,本件発明1は,刊行物1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
① 相違点1′について
引用発明1Aにおいて,「粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32」として,「高温に曝されたり,長期にわたって,被着されても粘着力の経時的な上昇が起こら」ない有利な効果を奏する周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものを採用することは当業者が容易になし得ることであって,その際に,その粘着剤は,0.05mm以上の厚みで一層でも押出成形が可能な程度の保形性をも備えるのであるから,二層の機能を一層で担保できる材料があれば,二層のものを一層のものに代えることは当業者が当然に試みることに照らし,「ポリオレフィンフィルム31」を省いて「一層」からなるライナーフィルムとすることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。引用発明1A及び周知技術に基づいて,ライナーフィルムが「一層」からなり「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなると規定することは当業者が容易に想到し得ることである。
② 相違点2′について
引用発明1Aにおいて,「一層」からなるライナーフィルムとすることは当業者が容易に想到し得ることであるから,引用発明1Aにおいて,層構造は「四層構造」から「三層構造」とすることも当業者が容易になし得ることである。
③ 相違点3′について
相違点3と同様,実質的な相違点ではない。
④ 効果について
引用発明1Aに周知技術を適用したことにより得られる気泡シートを巻き取ってロール状にした際には,ポリオレフィンであるバックフィルムが自己粘着性エラストマーシートに対する離型シートとなるから,巻き戻しが容易となる効果も当業者が予測しうるものである。よって,本件発明1の効果は,引用発明1A及び周知技術に基づいて当業者が予測しうるものであって,格別顕著なものではない。
(7) 本件発明2と引用発明1Bの一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと,当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと,キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられたライナーフィルムと,を備え,内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートの製造方法であって,キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり,キャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成形する工程で成形する気泡シートの製造方法」である点。
【相違点1″】
ライナーフィルムが,本件発明2は「一層」からなり「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものであるのに対し,引用発明1Bは「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものである点。
【相違点2″】
層構造が,本件発明2は「三層構造」であるのに対し,引用発明1Bは四層構造である点。
【相違点3″】
本件発明2は,「前記バックフィルムの背面である,前記キャップフィルムと接しない面に,前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成する工程を備える」と規定されているのに対し,引用発明1Bはそのような規定がされていない点
(8) 以下の理由により,本件発明2は,刊行物1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
① 相違点1″及び2″について
相違点1″及び相違点2″は,相違点1′及び相違点2′と同じであるから,引用発明1B及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る。
② 相違点3″について
相違点3″は,相違点3′と比べて,末尾が「・・・形成する工程を備える」とカテゴリーを異にするだけであるから,実質的な相違点ではない。
③ 効果について
本件発明2の効果は,引用発明1B及び周知技術に基づいて当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものではない。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件発明3についての判断の誤り)
(1) 本件発明3についての判断
ア 相違点1について
① 引用発明1Aの認定の誤り
審決は,刊行物1の図1,2の実施形態における熱賦活性樹脂層11が任意の層であることをもって,「図5の実施形態においても,ポリオレフィンフィルム10とポリオレフィンフィルム31とを,ポリオレフィンフィルム10と保護用のポリオレフィン12と同様に熱賦活性樹脂層11を介さずに直接,熱融着することについて記載されていると認められる。」(24頁30行~33行)と認定し,この認定に基づいて,引用発明1Aについて,ポリオレフィンフィルム31と含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とが直接熱融着されたものであると認定した(25頁6行~7行)。
しかし,図5の実施形態において熱賦活性樹脂層11が明示されている上,同層が任意の層であるとの記載は刊行物1に一切なく,予め所定の形状に成型された緩衝材シートである含気泡構造のポリオレフィンフィルム10の凸面側にポリオレフィンフィルム31を接着する場合には,熱賦活性樹脂層11を省略することはできない。一般に,接着剤を使用せずにフィルム同士を貼り合わせる場合には,両方のフィルムの貼り合せ面を溶融状態にする必要があるが,含気泡構造のポリオレフィンフィルム10の凸面にその表面が溶融状態になるまでの熱をかけると,気泡が破れたり変形するため,そこまでの熱をかけることはできない。このような理由から,図5の実施形態では,ポリオレフィンフィルム31及び含気泡構造のポリオレフィンフィルム10の両方に熱融着し得る熱賦活性樹脂層11は必須の層であり,図1,2の実施形態のような任意の層とすることはできない。
よって,審決の「図5の実施形態においても,ポリオレフィンフィルム10とポリオレフィンフィルム31とを,ポリオレフィンフィルム10と保護用のポリオレフィン12と同様に熱賦活性樹脂層11を介さずに直接,熱融着することについて記載されていると認められる。」(24頁30行~33行)との認定は誤りであり,この誤った認定に基づく引用発明1Aに係る認定のうちの「さらにポリオレフィンフィルム31と,上記含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを直接熱融着されてなる」との認定も誤りである。この部分は「さらにポリオレフィンフィルム31と,上記含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを熱賦活性樹脂層11を介して熱融着されてなる」とすべきである。
② 相違点1の認定の誤り
引用発明1Aは,上記①のとおりに認定されるべきであるから,相違点1は,「・・・引用発明1A『基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有』するものが,熱賦活性樹脂層11を介して熱融着することによりキャップフィルムに設けられたものである点」とすべきである。
③ ライナーフィルムの機能の認定の誤り
審決は,引用発明1Aにおける「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものと同じ機能を一層で代用できる材料として,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートについて検討し,「・・・引用発明2の自己粘着性エラストマーシートの厚みは,『0.05mm~1.0mm,好ましくは0.1mmから0.5mmである。』(摘示事項2f)と記載されているところ,引用発明1Aの『ポリオレフィンフィルム31』の厚みは,『0.03mm~0.2mm』(摘示事項1d)である。そうすると,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,引用発明1Aの『ポリオレフィンフィルム31』と重複する0.05mm~0.2mmの範囲において,粘着剤としての機能とともに,押出成形が可能で,一層でも作業者が被着体に貼り付けたり,剥離した後もシートとして再使用できる程度の保形性を奏する基材としての機能も備えていると認められる。」と認定した(29頁9行~17行)
しかし,この認定は,前記のとおり,引用発明1Aにおいては,粘着剤層32,ポリオレフィンフィルム31及び熱賦活性樹脂層11の三層と比較すべきところを,熱賦活性樹脂層11を無視し,二層のみを取り出して比較している点においてそもそも失当であり,しかも,二層の機能を一層で担保できる材料であるかどうかのみを検討した点においても失当である。すなわち,引用発明1Aの表面保護粘着シートにおける「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに必須の本来的な機能についての検討がなされていない。つまり,本件発明3の気泡シートや引用発明1Aの表面保護粘着シートは,被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護する機能を兼ね備えておく必要から,そのような衝撃を受けても破損しない程度の強度が,本件発明3においては「ライナーフィルム」に必要であり,また,引用発明1Aにおいては「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに必要である。刊行物2には,粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシートが開示されているのであって,この自己粘着性エラストマーシートはそもそも被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するという用途が想定されたものではない。刊行物2には,運搬・施工時の衝撃に対する強度の記載が一切ないにもかかわらず,審決ではその点についての検討を行わず,引用発明1Aのポリオレフィンフィルム31と粘着剤層32の二層の機能を引用発明2における一層で担保できる材料であるかどうかを,衝撃に対する強度を無視して,粘着性,押出成形性,および保形性のみに基づき判断している。審決の引用発明2の自己粘着性エラストマーシートの機能についての認定は,考慮すべき要素を考慮しておらず,その検討過程において看過できない誤りがある。
④ 誤った周知慣用技術の適用
審決は,気泡シートにおけるライナーフィルムとキャップフィルムとの熱融着手法に係る周知慣用技術と,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートの製法との関係について,「さらに,気泡シートにおけるライナーフィルムとキャップフィルムとの熱融着手法として,溶融押出し法は,例えば刊行物7(摘示事項7a乃至摘示事項7c)に示されるように周知慣用技術であるところ,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,押出成形で製造しているのであるから,溶融押出後の所定の時間,他のフィルムに対して熱融着可能なものである。」(29頁22行~26行)と認定した。
しかし,刊行物7(特開平7-88990号公報,甲5)に開示されている気泡シートにおけるライナーフィルムとキャップフィルムとを溶融押出しによって融着させる手法が本件出願時の周知慣用技術であったとしても,それは,粘着性を有しないライナーフィルムと,キャップフィルムとを溶融押出しによって融着させる手法にすぎない。一方,本件出願時の技術水準では,気泡シートに粘着剤を塗布した後のロールによる引き取りに困難があるため,気泡シートにあまり強い粘着性を付与することはできなかったのであり(特開2004-238546号公報〔甲13〕,段落【0002】~【0007】),引用発明1Aの「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するライナーシートの代わりに引用発明2の自己粘着性エラストマーシートを用いたうえで,キャップフィルムとの熱融着手法として溶融押出し法を採用した場合にも,自己粘着性エラストマーシート自身が有する粘着力によって「ロールによる引き取りに困難がある」という課題が依然として残ることは明らかである。
よって,甲13に示されている本件出願時の技術水準に基づけば,粘着性を有するライナーフィルムとキャップフィルムとベースフィルムから構成される気泡シートに関し,当業者は,ライナーフィルムとキャップフィルムとを溶融押出し法にて融着することを前提にした引用発明2の引用発明1Aへの適用は試みないはずである。
⑤ ポリオレフィン系樹脂の含有率の相違
審決において認定された引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,ポリオレフィン系重合体の含有率が9.1~50重量%の範囲のものである(25頁36行~26頁3行)。この含有率は,本件発明3のポリオレフィン系樹脂の含有率である30重量%以下と一部重複する範囲はあるものの,本件発明3に含まれる9.1重量%以下の範囲を含まない一方で,本件発明3に含まれない30重量%を超えて50重量%以下の範囲を含むものである。つまり,本件発明3では不適切なものとして除外されている含有率が引用発明2では好適なものとして含まれ,かつ,本件発明3に含まれる含有率の一部が引用発明2では不適切なものとして除外されている。したがって,引用発明2に「一層」からなる「原材料が,ポリオレフィン系樹脂を9.1~50重量%含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体をポリオレフィン系樹脂とのブレンド物」の開示があり,本件発明3との間にポリオレフィン系樹脂の含有率に一部重複があるからといって,そのポリオレフィン系樹脂の含有率を30重量%以下に限定した上で,それを引用発明1Aにおいて「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて適用することが容易であるとの判断は,本件発明3及び引用発明2の数値限定の意義を看過したものであり,誤りである。
⑥ 相違点1についてのまとめ
以上のとおり,審決における引用発明1Aの認定及びこれに基づく本件発明3と引用発明1Aとの相違点1の認定には誤りがある。
また,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートの機能についての認定は,考慮すべき要素を考慮しておらず,その検討過程において看過できない誤りがある。このような誤った認定に基づいてなされた自己粘着性エラストマーシートが引用発明1Aにおける二層の機能を一層で担保できる材料であるとの判断も誤りである。
さらに,周知慣用技術に基づき,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートを溶融押出しし,融着することで他のフィルムに直接設けることが可能であるとの判断は,本件特許出願時の技術水準に基づかない誤った周知慣用技術の適用に基づくものであるから,誤りである。
加えて,引用発明2と本件発明3との間にポリオレフィン系樹脂の含有率に一部重複した範囲があるからといって,そのポリオレフィン系樹脂の含有率を30重量%以下に限定したうえで,それを引用発明1Aに適用することが容易であるとした判断も本件発明3及び引用発明2において数値が限定されている意義を看過するものであり,誤りである。
よって,これらの誤った認定及び判断に基づいた相違点1に関する判断も誤りである。
イ 相違点2について
上記アのとおり,引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることや,「熱賦活性樹脂層11」を介さずにライナーフィルムの原材料を溶融押し出しし,融着することによりライナーフィルムをキャップフィルムに直接設けることは当業者が容易に想到し得ることではない。よって,引用発明1Aの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。
また,被告は,本件特許出願時の技術水準を示すものとして,乙3の段落【0009】の記載を引用する。しかし,本件発明3の「三層構造」は,一層からなるライナーフィルムがキャップフィルムに熱融着により張り合わされることにより形成されるものであるが,乙3に一層構造のものと二層構造のものとの変更実施の可能性が開示されていることだけをもって,粘着性を有する一層からなるライナーフィルムがキャップフィルムに熱融着により張り合わされることにより形成される「三層構造」が本件特許出願時の技術水準であったことにはならない。
(2) 本件発明3の効果に対する予測可能性の判断の誤り
審決では,引用発明1Aに引用発明2を適用したことにより得られる効果について,「してみると,引用発明1Aに引用発明2を適用したことにより得られる気泡シートを巻き取ってロール状にした際には,バックフィルムが自己粘着性エラストマーシートに対する離型シートとなるから,巻き戻しが容易となる効果は当業者が容易に予測し得るものである。」(31頁21行~24行),「さらに,引用発明2である自己粘着性エラストマーシートは,摘示事項2fに示されるように,押出成形により製造可能なものである。このため,引用発明1Aにおいて,引用発明2を適用した際には,接着剤層を積層あるいは塗布する手間をかけることなく製造できるようになることも当業者が予測し得る効果である。」(31頁25行~29行)と判断した。
しかし,前記のとおり,引用発明1Aに引用発明2を適用することは,当業者が容易に想到し得ることではないから,そのような適用が容易であることを前提にした上記判断は,いずれも誤りである。特に,後者の判断における「接着剤層を積層あるいは塗布する手間をかけることなく製造できるようになる」との効果は,前記「誤った周知慣用技術の適用」のとおり,本件特許出願時の技術水準からは,到底予測することのできない格別顕著なものである。
2 取消事由2(本件発明1についての判断の誤り)
(1) 本件発明1と引用発明1Aとの相違点の認定及び検討の誤り
ア 相違点1′について
① 引用発明1A及び相違点1′の認定の誤り
引用発明1Aは前記のとおり認定されるべきであるから,相違点1′は,「ライナーフィルムが,本件発明1は『一層』からなり,『添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ』からなるものが,キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられるものであるのに対し,引用発明1Aは『基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有』するものが,熱賦活性樹脂層11を介して熱融着することによりキャップフィルムに設けられたものである点。」とすべきである。
② ライナーフィルムの機能に関する認定の誤り及びこれに基づく判断の誤り
審決は,刊行物5(特開平9-157598号公報,甲4)に記載の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなる粘着剤の押出成形性及び保形性について,「刊行物2(摘示事項2j)の比較例1には,水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなるものを押出機にて厚み0.3mmとした自己粘着性エラストマーシートが記載されている。この自己粘着性エラストマーシートの厚みは,『0.05mm~1.0mm,好ましくは0.1mmから0.5mmである。』(摘示事項2f)と記載されているところ,引用発明1Aの『ポリオレフィンフィルム31』の厚みは,『0.03mm~0.2mm』(摘示事項1d)である。そうすると,水素化スチレン・ブタジエン系重合体のみからなるシートは,少なくとも0.05mm以上の厚みで粘着剤層としての機能とともに,一層でも押出成形が可能な程度の保形性を備えているものと認められる。」(36頁11行~18行)と認定したことを前提に,「してみると,引用発明1Aにおいて,『粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32』として,『高温に曝されたり,長期にわたって,被着されても粘着力の経時的な上昇が起こら』ない有利な効果を奏する周知の『添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ』からなるものを採用することは当業者が容易になし得ることであって,その際に,その粘着剤は,0.05mm以上の厚みで一層でも押出成形が可能な程度の保形性をも備えるのであるから,上記「c」の観点に照らし,『ポリオレフィンフィルム31』を省いて『一層』からなるライナーフィルムとすることは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないものと認められる。以上,引用発明1A及び周知技術に基づいて,ライナーフィルムが『一層』からなり,『添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ』からなると規定することは当業者が容易に想到し得ることである。」(36頁11行~37頁2行)と認定判断した。
しかし,この認定及び判断は,前記のとおり,引用発明1Aにおいては,粘着剤層32,ポリオレフィンフィルム31及び熱賦活性樹脂層11の三層と比較すべきところを,熱賦活性樹脂層11を無視し,二層のみを取り出して比較しているものである点においてそもそも失当であり,しかも,引用発明1Aにおいて,「ポリオレフィンフィルム31」を省いて「一層」からなるライナーフィルムとするには,引用発明1Aにおける「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものと同じ機能を,刊行物5の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」の一層で代用できることが担保される必要があるところ,審決の上記認定は,二層の機能を一層で担保できる材料であるかどうかを,「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが周知の粘着剤であることを前提に,押出成形性および保形性の観点のみから検討したものであり,引用発明1Aの表面保護粘着シートにおける「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに必須の本来的な機能についての検討がなされておらず,誤りである。つまり,本件発明1の気泡シートや引用発明1Aの表面保護粘着シートは,被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護する機能を兼ね備えておく必要から,そのような衝撃を受けても破損しない程度の強度が,本件発明1においては「ライナーフィルム」に必要であり,引用発明1Aにおいては「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものが必要である。刊行物5の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものについての押出成形性及び保形性の検討に用いられた刊行物2には,粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシートが開示されているのであって,この自己粘着性エラストマーシートはそもそも被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するという用途が想定されたものではない。このように,引用刊行物2には,運搬・施工時の衝撃に対する強度の記載が一切ないにもかかわらず,審決ではその点についての検討を行わず,引用発明1Aのポリオレフィンフィルム31と粘着剤層32の二層の機能を一層で担保できる材料であるかどうかを,衝撃に対する強度を無視して,押出成形性および保形性のみに基づき判断している。審決の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるもののライナーフィルムとしての機能についての認定は,考慮すべき要素を考慮しておらず,その検討過程において看過できない誤りがある。
③ 相違点1′についてのまとめ
以上のとおり,審決における引用発明1Aの認定及びこれに基づく本件発明1と引用発明1Aとの相違点1′の認定には誤りがある。
また,「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるもののライナーフィルムとしての機能についての認定は,考慮すべき要素を考慮しておらず,その検討過程において誤りがあり,このような誤った認定に基づいてなされた,「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが引用発明1Aにおける二層の機能を一層で担保できる材料であるとの判断も誤りである。
さらに,「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが粘着剤層として機能するものであるなら,「溶融押出し後の所定の時間,他のフィルムに対して熱融着可能なものである」との判断も,前記「誤った周知慣用技術の適用」のとおり,本件特許出願時の技術水準に基づかない誤ったものである。
よって,これらの誤った認定及び判断に基づいた,「引用発明1A及び周知技術に基づいて,ライナーフィルムが『一層』からなり,『添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ』からなると規定することは当業者が容易に想到し得ることである。」との判断も誤りである。
イ 相違点2′について
前記のとおり,引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることや,「熱賦活性樹脂層11」を介さずに「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものをキャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わせることにより設けることは当業者が容易に想到し得ることではない。よって,引用発明1Aの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。
(2) 本件発明1の効果に対する予測可能性の判断の誤り
審決では,引用発明1Aに周知技術を適用したことにより得られる効果について,「してみると,引用発明1Aに周知技術を適用したことにより得られる気泡シートを巻き取ってロール状にした際には,ポリオレフィンであるバックフィルムが自己粘着性エラストマーシートに対する離型シートとなるから,巻き戻しが容易となる効果は当業者が容易に予測し得るものである。」(38頁1行~6行)と判断した。
しかし,前記のとおり,引用発明1Aに周知技術を適用することは,当業者が容易に想到し得ることではないから,そのような適用が容易であることを前提にした上記判断は誤りである。
3 取消事由3(本件発明2についての判断の誤り)
(1) 本件発明2と引用発明1Bとの相違点の検討の誤り
本件発明2は,本件発明1と実質的に発明のカテゴリーが違うだけであり,また,引用発明1Bは,引用発明1Aと実質的に発明のカテゴリーが違うだけであるから,引用発明1B及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。
(2) 本件発明2の効果に対する予測可能性の判断の誤り
前記「本件発明2の効果に対する予測可能性の判断の誤り」のとおり,本件発明2の効果は,引用発明1B及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲のものではなく,格別顕著なものである。
第4 被告の反論
1 取消事由1に対し
(1) 引用発明1Aの認定の誤りにつき
ア 原告は,刊行物1の図5の実施態様において,「熱賦活性樹脂層11」は必須の層であると主張する。
しかし,刊行物1の段落【0017】には,「また図1,図2に示すように,ポリオレフィンフィルム10のポリオレフィンフィルム31への接着性を良好とするためにこれらの間に熱賦活性樹脂層11を形成してもよく・・・」と記載されており,図5の実施態様に限って「熱賦活性樹脂層11」が必須の層であるとする記載はない。
イ 原告は,図5の実施態様が「熱賦活性樹脂層11」を必須の層とする根拠として,一般に,接着剤を使用せずにフィルム同士を貼り合わせる場合には,両方のフィルムの貼り合せ面を溶融状態にする必要があるが,含気泡構造のポリオレフィンフィルム10の凸面にその表面が溶融状態になるまでの熱をかけると,気泡が破れたり変形するため,そこまでの熱をかけることはできないと主張する。
しかし,特開平7-329224号公報(乙2)によれば,このような原告の主張は,本件特許出願時の技術水準からみて誤りである。すなわち,乙2は,気泡を有するプラスチック製の緩衝シート及びその製造方法に関するものであるところ,段落【0011】,【0012】,【0043】~【0045】段落及び図6には,予め成形されたフィルム原反をトップフィルム23に用いて,緩衝シート4のエンボス21側に熱融着によって貼り合わせる工程を説明しているが,段落【0043】には,「・・・緩衝シート4は,加熱ロール118及び圧着ロール115に送られる前に予熱することが好ましい。」と記載されているだけであり,緩衝シート4のエンボス21側を溶融状態にする必要があるとはしていない。そうすると,接着剤を使用せずにフィルム同士を貼り合わせる場合には,両方のフィルムの貼り合せ面を溶融状態にする必要があるとはいえないから,この点において原告の主張には誤りがある。
また,乙2の段落【0050】には,予め成形されたフィルム原反をエンボス21側に熱融着によって貼り合わせた緩衝シート5の具体例である実施例3について,「基材部及びエンボスフィルムとして,実施例1のものを用い,エンボスフィルムと貼り合わせるフィルムとして,図5に示した成形方法により成形した厚さ40μmのポリエチレン製インフレーションフィルムを用いて,図3の工程から図6の工程を経る製造法により,緩衝シートを製造した。製造した緩衝シートは,気泡(エンボス)形成後の空気抜けはなく,・・・」と記載され,予め成形されたフィルム原反をトップフィルム23(ライナーフィルム)として,エンボスフィルム22の突起21の突き出す側の面に熱融着により貼り合わせることによって緩衝シート5(気泡シート)を製造しても,気泡(エンボス)形成後の空気抜けが認められない旨が記載されている。
そうすると,乙2のエンボスフィルム22が,刊行物1の含気泡構造のポリオレフィンフィルム10に相当するのはいうまでもないから,刊行物1の含気泡構造のポリオレフィンフィルム10の凸面に,熱賦活性樹脂層11を介さずにポリオレフィンフィルム31を直接,熱融着しても,気泡が破れたり変形することがないようにすることができることは,本件特許出願時の技術水準に照らせば明白である。
ウ したがって,刊行物1の図5の実施態様では,「熱賦活性樹脂層11」は必須の層であるとする原告の主張には何の根拠もない。よって,審決が「図5の実施態様においても,ポリオレフィンフィルム10とポリオレフィンフィルム31とを,ポリオレフィンフィルム10と保護用のポリオレフィンフィルム12と同様に熱賦活性樹脂層11を介さずに直接,熱融着することについて記載されていると認められる。」(24頁30行~33行)と認定したことに誤りはない。
エ なお,乙2の段落【0045】には,「・・・トップフィルム23は,・・・インフレーションフィルム,Tダイフィルムのどちらを用いてもよい。また,図6のロール117(被告注:「116」の誤記と思われる),ロール118(被告注:「117」の誤記と思われる)の代わりに,Tダイによりトップフィルム23を形成し,このトップフィルムが直接加熱ロール118に送られてもよい。・・・」と記載されており,気泡シートにトップフィルム(ライナーフィルム)を積層する方法としては,予め成形されたフィルム原反を気泡シートの気泡側に熱融着によって積層する方法と,本件発明のように,樹脂材料をフィルム状に溶融押出しながら,気泡シートの気泡側に積層する方法の二つの方法が,本件特許出願時に既に知られていた。
(2) 相違点1の認定の誤りにつき
上記のとおり,引用刊行物1の実施態様において,熱賦活性樹脂層11は必須の層ではないから,この点を相違点としなかった審決の認定に誤りはない。
(3) ライナーフィルムの機能の認定の誤りについて
ア 原告は,審決は,引用発明2の自己粘着性エラストマーシート及び粘着剤材料として周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが,引用発明1Aのポリオレフィンフィルム31と粘着剤層32の二層の機能を一層で担保できるかどうかを,衝撃に対する強度を無視して判断していると主張する。
しかし,被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護する機能は気泡シート全体として発揮されるのであって,ライナーフィルムがそれ単独で発揮するものではないことに鑑みれば,ライナーフィルムの機能として「衝撃に対する強度」が必要とされるとしても,それは,「一定の外力によっては破れたりしない強度」と解するのが相当であり,審決はこのような強度について検討している。
すなわち,審決は,「また,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートの厚みは,「0.05~1.0mm,好ましくは0.1~0.5mmである。」(摘示事項2f)と記載されているところ,引用発明1Aの「ポリオレフィンフィルム31」の厚みは,「0.03~0.2mm」(摘示事項1d)である。そうすると,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,引用発明1Aの「ポリオレフィンフィルム31」と重複する0.05~0.2mmの範囲において,粘着剤としての機能とともに,押出成形が可能で,一層でも作業者が被着体に貼り付けたり,剥離した後もシートとして再使用できる程度の保形性を奏する基材としての機能も備えていると認められる。」(29頁9行~17行),「この自己粘着性エラストマーシートの厚みは,「0.05~1.0mm,好ましくは0.1~0.5mmである。」(摘示事項2f)と記載されている。そうすると,水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなるシートは,少なくとも0.05mm以上の厚みで粘着剤層としての機能とともに,一層で押出成形が可能な程度の保形性を備えているものと認められる。」(36頁13行~18行)としており,引用発明2の自己粘着性エラストマーシート及び粘着剤材料として周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが,引用発明1Aのポリオレフィンフィルム31と粘着剤層32の二層の機能を一層で担保できるかどうかを検討するに際して,所定の厚みの範囲で保形性を備えているか否かについて検討している。保形性を備えているということは,フィルムとして一定の形状を保つための強度を有していることであるから,フィルムの保形性について検討することは,フィルムの強度について検討するのと同じことである。そして,審決は,「引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,・・・一層でも作業者が被着体に貼り付けたり,剥離した後もシートとして再使用できる程度の保形性を奏する基材としての機能も備えているものと認められる。」(29頁13行~17行)としており,被着体への貼り付けと剥離を繰り返したときの外力によっても破れたりせずに,その形状を保つことができると判断している。
してみれば,審決は,引用発明2の自己粘着性エラストマーシート及び粘着剤材料として周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが,ライナーフィルムに必要とされる強度,すなわち,「一定の外力によっては破れたりしない強度」を有しているか否かを検討しているということができる。
イ また,引用発明1Aでは,刊行物1に「このポリオレフィンフィルム10の平均膜厚は,好ましくは0.020~0.100mm,より好ましくは0.04~0.07mmである。この膜厚が0.020mm未満である場合,ポリオレフィンフィルム10が破れ易くなって本発明の表面保護粘着シートの緩衝機能が発揮できなくなる恐れがあり,・・・」(段落【0013】)と記載されているように,気泡を形成するフィルムの好ましい厚みを規定して,当該フィルムが一定の外力によっては破れたりしないようにすることで,表面保護粘着シート(気泡シート)の緩衝機能が損なわれないようしている。
そうすると,本件発明3の「ライナーフィルム」や引用発明1Aの「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに,ライナーフィルムとして必要とされる強度は,一定の外力によっては破れたりしない程度の強度であればよいのは明らかである。
本件発明にあっても,本件発明に係る特許出願の当初明細書の段落【0013】に「本発明に用いられるバックフィルムの厚さは5~100μm,好ましくは10~40μm,キャップフィルムの厚さは10~100μm,好ましくは15~60μm,ライナーフィルムの厚さは5~100μm,好ましくは8~30μmであり,用途に応じて適宜選択される。」と記載されているだけであり,これらのフィルムに格段の強度が必要とされる旨の記載がないことからも,ライナーフィルムは,その厚さを規定することにより,一定の外力によっては破れたりしない程度の強度があればよいと解することに何の妨げもない。
ウ 以上のことから,審決のライナーフィルムの機能の認定に誤りはなく,引用発明2の自己粘着性エラストマーシート及び粘着剤材料として周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが,引用発明1Aのポリオレフィンフィルム31と粘着剤層32の二層の機能を一層で担保できるとした審決の判断にも誤りはない。
(4) 誤った周知慣用技術の適用につき
原告は,甲13の段落【0005】段落の記載を根拠に,甲13に示されている本件特許出願時の技術水準に基づけば,粘着性を有するライナーフィルムとキャップフィルムとベースフィルムから構成される気泡シートに関し,当業者は,ライナーフィルムとキャップフィルムとを溶融押出し法にて融着することを前提にした引用発明2の引用発明1Aへの適用は試みないはずであると主張する。
しかし,例えば,刊行物7の図5において「ロールによる引き取りに困難がある」とは,製造過程において気泡シート1を引き取るときに,引き取りの初期において,ライナーフィルム4側に位置するロール25にライナーフィルム4が貼りついてしまう場合があることをいっているのであって,ロール25に貼りついてもすぐに剥がれる程度の弱い粘着性であれば,ロール25による引き取りは,それほど困難なものではない。
刊行物1の表面保護粘着シートは,被着体から剥離する際に,緩衝材の破壊がなく,粘着剤残りが生じることなく,容易に剥離することができるものであるから(段落【0044】等参照),刊行物1の表面保護粘着シートに,「ロールによる引き取りに困難がある」としても,その製造ができないほどの著しい困難があるわけでない。
甲13の段落【0005】に「・・・要するに,気泡シートにあまり強い粘着性を付与することができないのが,これまでの技術水準である。」と記載されているように,甲13は,「ロールによる引き取りに困難がある」という問題を,粘着性の強弱に応じた程度問題としているのであって,製造を妨げるほどの問題があるとまではいっていない。
したがって,原告は,甲13の段落【0005】の記載を根拠に,自己粘着性エラストマーシート自身が有する粘着力によって「ロールによる引き取りに困難がある」という課題が残ると主張するが,仮に,そのような課題が残ると譲歩してみても,製造できないほどの困難があるわけではない。そうすると,甲13段落【0005】の記載が,刊行物7に示される周知慣用技術(溶融押出し法)を適用して,引用発明1Aの「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートや,粘着剤材料として周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなる「一層」のものをライナーフィルムとして溶融押出し法にて融着することに想到することの妨げとなる理由はない。
(5) ポリオレフィン系樹脂の含有率の相違につき
原告自身,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートにおけるポリオレフィン系重合体の含有率が,本件発明3のポリオレフィン系樹脂の含有率と一部重複することを認めており,この重複した範囲で同様の作用効果が期待できるのはいうまでもない。すなわち,本件特許に係る特許出願の当初明細書の段落【0012】には「・・・ポリオレフィン系樹脂のブレンド可能範囲は,ライナーフィルム同士の粘着性の点から30重量%以内である。」と記載され,刊行物2の段落【0006】には「・・・オレフィン系重合体の配合量が,水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して,10重量部より少なくなると,得られる自己粘着性エラストマーシートの粘着性が強くなりすぎてシール素材としては不適であり,また,オレフィン系重合体の配合量が100重量部を越えると自己粘着性に劣り好ましくない。・・・」と記載されていることから,本件発明3と引用発明2のいずれにおいても,水素化スチレン・ブタジエン共重合体(水添ジエン系ランダム共重合体)にポリオレフィン系樹脂(オレフィン系重合体)を配合する目的は,その粘着力を適宜調整することにあることが理解できる。そうであれば,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートにおけるオレフィン系重合体の含有率と,本件発明3のポリオレフィン系樹脂の含有率とが重複する範囲において,同様の粘着力が発揮されるのは明らかである。
原告は,審決には,ライナーフィルムにおける「ポリオレフィン系樹脂の含有率」に関して,本件発明3及び引用発明2の数値限定の意義を看過した誤りがあると主張するだけであり,本件発明3と引用発明2とで,その数値限定の意義にどのような差異があるのかについて,何も示していない。
したがって,引用発明2の自己粘着性エラストマーシート中のオレフィン系重合体が9.1~50重量%であり,本件発明3のライナーフィルムとの間にポリオレフィン系樹脂の含有率に重複があることから,引用発明1Aのライナーフィルムを,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートに置き換えて本件発明3とするにあたり,当該自己粘着性エラストマーシートのオレフィン系重合体の含有率を30重量%以下に限定して本件発明3に対応させた審決の判断に誤りはない。
(6) 相違点2につき
ア 前記「引用発明1Aの認定の誤りにつき」のとおり,刊行物1の図5の実施態様において「熱賦活性樹脂層11」は必須の層ではなく,前記「ライナーフィルムの機能の認定の誤りにつき」のとおり,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは,ライナーフィルムとして必要な強度,すなわち,一定の外力によっては破れたりしない強度を有しており,前記「誤った周知慣用技術の適用につき」のとおり,甲13の段落【0005】の記載が,刊行物7に示される周知慣用技術(溶融押出し法)を適用して,引用発明1Aの「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて,引用発明2の自己粘着性エラストマーシートや,粘着剤材料として周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなる「一層」のものをライナーフィルムとして溶融押出し法にて融着することに想到することの妨げとなる理由はない。
したがって,「引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることや,「熱賦活性樹脂層11」を介さずにライナーフィルムの原料を溶融押し出しし,融着することによりライナーフィルムをキャップフィルムに直接設けることは当業者が容易に想到し得ることではない。」とする原告の主張は失当である。してみれば,当該主張を根拠に,「引用発明1Aの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。」とする原告の主張も失当である。
イ また,登録実用新案第3048069号公報(乙3)は,本件特許出願時の出願時の技術水準を示すものであるところ,その段落【0009】には,「・・・微着シート層10の微着性は,張付面側のベース層を汎用合成樹脂フィルムで形成して,その上に微着性の透明合成樹脂をラミネートするという手段によっても形成可能である。」と記載されており,微着シート層10は,微着性合成樹脂フィルムのみを用いた一層構造のものと,汎用合成樹脂フィルム上に微着性透明合成樹脂をラミネートした二層構造のものとの間での変更実施を可能としていることが容易に理解できる。
そうすると,本件特許出願時の技術水準を示す乙3に照らしても,引用発明1Aにおける「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものと同じ機能を一層で代用することで,引用発明1Aの層構造を「三層構造」とすることは,当業者が容易になし得ることであるのは明らかである。
ウ よって,相違点2につき,「引用発明1Aにおいて,「一層」からなるライナーフィルムとすることは当業者が容易に想到し得ることであるから,引用発明1Aにおいて,層構造は「四層構造」から「三層構造」とすることも当業者が容易になし得ることである。」とした審決の判断に誤りはない。
(7) 本件発明3の効果に対する予測可能性の判断の誤りにつき
前記「誤った周知慣用技術の適用につき」のとおり,甲13に示されている本件特許出願時の技術水準に基づけば,粘着性を有するライナーフィルムとキャップフィルムとベースフィルムから構成される気泡シートに関し,当業者は,ライナーフィルムとキャップフィルムとを溶融押出し法にて融着することを前提にした引用発明2の引用発明1Aへの適用は試みないはずであるという原告の主張は理由がなく,かかる主張を根拠として,審決における本件発明3の効果に対する予測可能性の判断が誤りであるとする原告の主張もまた理由がない。
2 取消事由2に対し
(1) 引用発明1A及び相違点1′の認定の誤りにつき
前記のとおり,審決の引用発明1Aの認定に誤りはない。したがって,引用発明1Aの認定に誤りがあることを前提として,本件発明1と引用発明1Aとの相違点1′の認定にも誤りがあるとする原告の主張は理由がない。
(2) ライナーフィルムの機能に関する認定の誤り及びこれに基づく判断の誤りにつき
前記のとおり,ライナーフィルムの機能の認定につき,審決に誤りはない。
したがって,粘着剤材料として周知の「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが,引用発明1Aのポリオレフィンフィルム31と粘着剤層32の二層の機能を一層で担保できるとした審決の判断に誤りはない。
(3) 相違点2′につき
前記1(6)「相違点2につき」と同じである。
(4) 本件発明1の効果に対する予測可能性の判断の誤りにつき
前記1(7)「本件発明3の効果に対する予測可能性の判断の誤りにつき」と同じである。
3 取消事由3に対し
(1) 本件発明2と引用発明1Bとの相違点の認定の誤りにつき
前記2のとおり,審決の相違点1′の認定及び相違点2′の判断に誤りはない。
したがって,審決が「相違点1″及び相違点2″は,・・・相違点1′及び相違点2′と同じであるから,・・・引用発明1B及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に想到し得る。」(40頁33行~36行)と判断したことに誤りはない。
(2) 本件発明2の効果に対する予測可能性の判断の誤りにつき
前記のとおり,審決が「本件発明1の効果は,引用発明1A及び周知技術に基づいて当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものではない。」(38頁5行~6行)と判断したことに誤りはない。
してみれば,本件発明2は,本件発明1と実質的に発明のカテゴリーが違うだけであり,同等の効果が奏されるのは当然であるから,「本件発明2の効果は,引用発明1B及び周知慣用技術に基づいて当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものではない。」(41頁12行~14行)とした審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 本件発明1~3について
本件明細書(甲6,7)によれば,本件発明1~3(本件発明)は,緩衝材等として使用される気泡シート及びその製造方法に関するものであり,ポリエチレンに代表されるプラスチック材料を原材料として多数の凸部が形成されたキャップフィルムの一方の面に第1のフィルム(バックフィルム)を貼り合わせ,多数の密封された気泡空間を形成し,さらにキャップフィルムの他の面に第2のフィルム(ライナーフィルム)を貼り合わせたバックフィルム,キャップフィルム及びライナーフィルムの三層構造からなる気泡シートが開発されているが,かかるシートは被包装物をしっかり固定しづらい欠点があること,この点を改良したものとしてバックフィルムの上に粘着剤層を積層あるいは塗布した気泡シートが開発されているが,接着剤層を積層あるいは塗布する手間がかかりコスト高となる上,気泡シートを巻き取ると付着してしまい,巻き戻すことができないという問題点があることに鑑み,緩衝性や断熱性を損なうことなく,接着剤層を積層あるいは塗布する手間をかけることなくライナーフィルム同士の粘着性を改良し,被包装物をしっかり固定でき,衝撃にもろい物品の養生及び運搬に適し,気泡シートを巻き取ってもシートが付着することなく巻き戻すことが容易にできる気泡シートを提供することを目的とし,その目的を達成するため,多数の凸部が形成されたキャップフィルムと,当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと,前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムとを有する三層構造を備え,内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって,キャップフィルム及びバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり,ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体である気泡シート,並びにキャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成型する工程で成形することを特徴とするこれらの気泡シートの製造方法を提供したものであることが認められる。
2 引用発明について
刊行物1(甲1)によれば,引用発明1A,1B(引用発明)は,衝撃に脆い物品(被着体)において,緩衝効果をもたらし得る緩衝材を付加した表面保護粘着シートに関するものであり,従来の片面に粘着剤を有するプラスティックフィルムの場合,養生用途に関しては問題は生じないが,被着体の運搬・施工時の衝撃に対しては保護する機能が殆どなく被着体の損傷は免れなかったこと,緩衝材(含気泡構造,発砲体,段ボール等)の場合,被着体が衝撃からの保護は十分であるが,緩衝材が被着体からずれて隙間が生じ,この隙間から異物が混入して表面を傷つける場合があること,緩衝材に粘着剤層を設けた構造の場合,緩衝材が被着体に強固に接着されているため,被着体の保護用としての使用後に被着体からの剥離が困難であることに鑑み,かかる問題点を解決すべく,被着体に対して有効な緩衝作用を示し,かつ使用後に被着体から剥離した際,緩衝材の破壊がなくその全部が剥離されるような表面保護粘着シートを提供することを目的とし,それを達成するため,基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有し,他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有する表面保護粘着シートであって,真空成型により予め多数の凸部を形成した緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成したものであることが認められる。
3 本件発明3の相違点1について
(1) 原告は,引用発明は刊行物1の図5の実施形態から認定されたものであるところ,刊行物1の図5の実施形態において熱賦活性樹脂層11が明示されている上,同層が任意の層であるとの記載は刊行物1に一切ないことからすれば,図1,2の場合と異なり,予め所定の形状に成型された緩衝材シートである含気泡構造のポリオレフィンフィルム10の凸面側にポリオレフィンフィルム31を接着する場合には,熱賦活性樹脂層11を省略することはできないと主張する。
【図1】
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【図2】
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【図5】
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この点,刊行物1において,図1,図2の実施態様について説明した段落【0017】には,「図1,図2に示すように,ポリオレフィンフィルム10のポリオレフィンフィルム31への接着性を良好とするためにこれらの間に熱賦活性樹脂層11を形成してもよく,ポリオレフィンフィルム10の接着時に加熱して熱融着させる。」との記載がある。しかし,図5の実施態様について説明している段落【0025】には,「上記の方法にてポリオレフィンフィルム31の片面に粘着剤層32を形成し,このポリオレフィンフィルム31と,上記の含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを熱賦活性樹脂層11を介して熱融着させる」と明確に記載されている上,図1,2は,ポリオレフィンフィルム10の凸面ではない側にポリオレフィンフィルム31を接着するものであり,ポリオレフィンフィルム10の凸面側にポリオレフィンフィルム31を接着する図5とは実施例を異にするものである。そうすると,図1,2の実施例に関する段落【0017】の上記記載のみを根拠として,図5の実施態様においても,熱賦活性樹脂層11を任意の層とし,「ポリオレフィンフィルム10とポリオレフィンフィルム31とを,ポリオレフィンフィルム10と保護用のポリオレフィンフィルム12と同様に熱賦活性樹脂層11を介さずに直接,熱融着することについて記載されていると認められる」とした審決の認定は誤りというべきである。
そうすると,審決が,「図5の実施形態においても,ポリオレフィンフィルム10とポリオレフィンフィルム31とを,ポリオレフィンフィルム10と保護用のポリオレフィン12と同様に熱賦活性樹脂層11を介さずに直接,熱融着することについて記載されていると認められる。」(24頁30行~33行)と認定し,この認定に基づいて,引用発明1Aとして「さらにポリオレフィンフィルム31と,上記含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを直接熱融着されてなる」と認定したことも誤りであり,上記部分は「さらにポリオレフィンフィルム31と,上記含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを熱賦活性樹脂層11を介して熱融着されてなる」とすべきであったと認められる。
また,引用発明1Aは,上記のとおりに認定されるべきであるから,本件発明3についての相違点1は,「・・・引用発明1A『基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有』するものが,熱賦活性樹脂層11を介して熱融着することによりキャップフィルムに設けられたものである点」とすべきであり,審決の相違点1の認定にも誤りがある。
(2) しかし,特開平7-88990号公報(甲5)には気泡シートに関する発明が記載されているところ,その段落【0023】,図2,図3には,溶融状態の平滑なライナーフィルム4を2基の加圧ロール25の間に2層構成の気泡シート1と共に導入し,キャップフィルム2の気泡室4頂部面に貼合5され,3層構成の気泡シート1とすることが記載されている。また,特開平7-329224号公報(乙2)には気泡を有するプラスチック製の緩衝シート及びその製造方法に関する発明が記載されているところ,段落【0011】,【0012】,【0043】~【0045】,【0050】及び図6には,予め成形されたフィルム原反をトップフィルム23(ライナーフィルム)として,エンボスフィルム22の突起21の突き出す側の面に熱融着により貼り合わせることによって緩衝シート5を製造しても,気泡(エンボス)形成後の空気抜けが認められない旨が記載されている。さらに,刊行物1の段落【0017】には,図1,図2の実施態様の説明としてではあるが,熱賦活性樹脂層11がポリオレフィンフィルム10のポリオレフィンフィルム31への接着性を良好とするためにこれらの間に設けられていることが記載されている。
このような本件発明の出願当時の技術水準からすると,刊行物1において,ポリオレフィンフィルム31と含気泡構造のポリオレフィンフィルム10の凸面側を熱融着するのに熱賦活性樹脂層11が必要不可欠であるとはいえない。そうすると,本件発明3と引用発明1Aの相違点1として,「・・・引用発明1A『基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有』するものが,熱賦活性樹脂層11を介して熱融着することによりキャップフィルムに設けられたものである点」と認定すべきであったとしても,熱賦活性樹脂層11を設けないようにすること自体は,当業者であれば容易に想到し得る事項ということができる。よって,原告の主張する引用発明1Aの認定の誤り,相違点1の認定の誤りはいずれも,審決の結論に影響のあるものではないというべきである。
4 本件発明3に関する取消事由1のうち「ライナーフィルムの機能の認定の誤り」及び相違点2について
(1) 刊行物2(甲2)によれば,引用発明2は,ガラス,セラミック,金属,プラスチック,木などの平滑な表面に対して,接着剤や粘着剤を使用せずに容易に貼着することができるとともに,容易に引き剥がすことができる自己粘着性エラストマーシートに関するものであり,従来のシールは,紙,金属箔,プラスチックシートが使用され,片面には粘着剤を使用して粘着されていたが,粘着剤の劣化による剥がれが生じたり,シールを取り外すときに剥がれにくく,取り外した後に粘着剤が残ってしまうなどの問題があったことから,粘着が容易で,剥がした後の粘着剤の残りの問題がなく,再使用の場合も容易に粘着できる自己粘着性エラストマーシートを提供することを目的とし,それを達成する手段として,水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して,オレフィン系重合体を10~100重量部配合した樹脂組成物を採用したものであることが認められる。
(2) 原告は,刊行物2には,粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシートが開示されているのであって,この自己粘着性エラストマーシートはそもそも被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するという用途が想定されたものではなく,運搬・施工時の衝撃に対する強度の記載が一切ないにもかかわらず,審決ではその点についての検討を行わず,引用発明1Aのポリオレフィンフィルム31と粘着剤層32の二層の機能を引用発明2における一層で担保できる材料であるかどうかを,衝撃に対する強度を無視して,粘着性,押出成形性,および保形性のみに基づき判断している点で誤りであると主張するところ,かかる原告の主張は,運搬・施工時の衝撃に対する強度の記載が一切なく,被着体保護用途が想定されない引用発明2を材料自体の性質,製造可能性の観点から検討しただけでは,引用発明1Aとの組合せの論理付けがなされていないというものと解される。
そこで検討するに,審決は,「プラスチックフィルム等を用いる包装材において,新たな機能を付与しようとすれば新たな機能を有する層を付加するのは当業者の技術常識といえ,逆に,従来複数の層により達成されていた機能を例えば一層で達成できるならば,従来の複数の層に代えて新たな一層を採用し,製造の工程や手間やコストの削減を図ることも,当業者の技術常識といえる。すなわち,二層の機能を一層で担保できる材料があれば,二層のものを一層のものに代えることは当業者が当然に試みることである。」(28頁1行~8行)と当業者の技術常識を認定している。
しかし,積層体の発明は,各層の材質,積層順序,膜厚,層間状態等に発明の技術思想があり,個々の層の材質や膜厚自体が公知であることは,積層体の発明に進歩性がないことを意味するものとはいえず,個々の具体的積層体構造に基づく検討が不可欠であり,一般論としても,新たな機能を付与しようとすれば新たな機能を有する層を付加すること自体は容易想到といえるとしても,従来複数の層により達成されていた機能をより少ない数の層で達成しようとする場合,複数層がどのように積層体全体において機能を維持していたかを具体的に検討しなければ,いずれかの層を省略できるとはいえないから,二層の機能を一層で担保できる材料があれば,二層のものを一層のものに代えることが直ちに容易想到であるとはいえない。目的の面からも,例えば材質の変更等の具体的比較を行わなければ,層の数の減少が製造の工程や手間やコストの削減を達成するかどうかも明らかではない。
引用発明2は,粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシート(いわばシール)に関する発明であって,被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するための気泡シートに関する発明である引用発明1Aとは技術分野ないし用途が異なるものである。当業者は,発明が解決しようとする課題に関連する技術分野の技術を自らの知識とすることができる者であるから,気泡シートの分野における当業者は,引用発明1Aが「粘着剤層32」を有していることから「粘着剤」に関する技術も自らの知識とすることができ,「粘着剤」の材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮できるとしても,引用発明1Aを構成しているのは「粘着剤層32」であるから,当業者は,気泡シート内でポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32に関する知識を獲得できると考えるのが相当であり,両者を合わせて気泡シートの構造自体を変更すること(すなわち,「ポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32」という二層構造を,気泡シートの構造と粘着剤の双方を合わせ考慮して一層構造とすること)まで,当業者の通常の創作能力の発揮ということはできないというべきである。
(3) したがって,引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることは容易想到でなく,そうすると,引用発明1Aに引用発明2を適用することは容易想到であるとはいえない。
(4) なお,被告は,登録実用新案第3048069号公報(乙3)の段落【0009】には,「・・・微着シート層10の微着性は,張付面側のベース層を汎用合成樹脂フィルムで形成して,その上に微着性の透明合成樹脂をラミネートするという手段によっても形成可能である。」と記載から,微着シート層10は,微着性合成樹脂フィルムのみを用いた一層構造のものと,汎用合成樹脂フィルム上に微着性透明合成樹脂をラミネートした二層構造のものとの間での変更実施を可能としていることが容易に理解できるので,引用発明1Aにおける「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものと同じ機能を一層で代用することで,引用発明1Aの層構造を「三層構造」とすることは,当業者が容易になし得ることであると主張する。
しかし,「・・・微着シート層10の微着性は,張付面側のベース層を汎用合成樹脂フィルムで形成して,その上に微着性の透明合成樹脂をラミネートするという手段によっても形成可能である。」とは,汎用合成樹脂フィルムと微着性の透明合成樹脂をラミネートして積層するものであって,具体的接着剤層の形成方法として塗布・乾燥を用いる引用発明1Aとは形成方法や材料が異なる。したがって,乙3の前記記載から,微着シート層10は,微着性合成樹脂フィルムのみを用いた一層構造のものと,汎用合成樹脂フィルム上に微着性透明合成樹脂をラミネートした二層構造のものとの間での変更実施を可能としていることが容易に理解できるとしても,具体的接着剤層の形成方法として塗布・乾燥を用いる引用発明1Aにおける基材としてのポリオフィレンフィルム31と粘着剤層32を一層にすることが容易であるということはできないと解されるし,乙3は層の変更実施の技術水準の立証という範囲に限り検討されるべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができず,本件発明3について相違点2を容易推考とした審決の判断は誤りである。
5 本件発明1に関する取消事由2のうち「ライナーフィルムの機能に関する認定の誤り」及び相違点2′について
(1) ライナーフィルムの原材料が,本件発明3において,ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり,前記ブレンド物を溶融押し出しし,融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられる点が特定されているのに対し,本件発明1においては,添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみと特定されているところ,審決は,刊行物5(特開平9-157598号公報,甲4)の実施例6に表面保護フィルムの粘着剤として「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものが記載され,刊行物2の比較例1には,水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなるものを押出機で自己粘着性エラストマーシートが記載されていることから,周知の粘着剤として,添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみのものを認定し,これらが適度な初期粘着力,粘着力経時的上昇がないという有利な効果を有するより適した粘着剤であることから,「ポリオレフィンフィルム31」を省いてこれらの周知の粘着材「一層」からなるライナーフィルムとすることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないとした。
しかし,刊行物5(甲4)は表面保護フィルム,刊行物2は粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシート(いわばシール)に関する文献であって,被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するための気泡シートに関する発明である引用発明1Aとは技術分野ないし用途を異にするものであり,刊行物2,5から認定できるのは表面保護フィルムや自己粘着性エラストマーシートの組成としての技術にすぎない。また,引用発明1Aを構成しているのは「粘着剤層32」であるから,当業者は,気泡シート内でポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32を審決が認定した周知の粘着剤とすることを想到することはできたとしても,両者を合わせて気泡シートの構造自体を変更すること(すなわち,「ポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32」という二層構造を,気泡シートの構造と粘着剤の双方を合わせ考慮して一層構造とすること)まで,容易に想到することができたとはいえないというべきである。
(2) 上記(1)で判断したところによれば,引用発明1Aにおいて,「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に,粘着力が0.7~25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることは,当業者が容易に想到し得ることではない。よって,引用発明1Aの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。
よって, 取消事由2のうち「相違点2′」に関する原告主張は理由がある。
6 本件発明2に関する取消事由3のうち相違点について
本件発明2は,本件発明1と実質的に発明のカテゴリーが違うだけであり,また,引用発明1Bは,引用発明1Aと実質的に発明のカテゴリーが違うだけであるから,本件発明1と同様,本件発明2は,引用発明1B及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。
よって,取消事由3のうち「本件発明2と引用発明1Bとの相違点の検討の誤り」に関する原告の主張は理由がある。
第6 結論
以上のとおりであって,審決は本件発明1~3についての相違点に関し容易想到であるとした点において取消しを免れないから,原告主張のその余の点を判断するまでもなく,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 真辺朋子 裁判官 田邉実)