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裁判年月日 昭和50年12月24日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決

事件番号 昭48(行ケ)142号

「嵩高糸製造装置」事件

 

一 前掲請求原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたる特許庁における手続、発明の要旨及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

 

二 そこで、本件審決に原告主張の取消事由があるか否かについて検討する。

 第一及び第二引用例にそれぞれ右審決が理由中で認定の前掲技術内容が記載されていること、本願発明と第一引用例のものとが、仮撚附与装置と加熱装置との間に冷却液附与装置を設けた嵩高糸製造装置である点で一致し、本願発明においてだけ、冷却液附与装置の下方に圧縮気体噴出装置が設けられている点で相違することは原告の自陳するところである。そして、成立に争いのない甲第三号証(本願発明の特許公報)によると、本願発明における圧縮気体噴出装置は冷却液附与装置から滴下する液体を飛散させる作用を営むものであることが認められるが、嵩高糸製造装置において仮撚装置、加熱装置などの上に液体が滴下すれば障害が生じることが本願出願前から周知であつたことは原告の自認するところである。しかるに、気化熱を冷却に利用することが当時周知であつたことも原告の自認するところであり、第二引用例には湿潤した繊維に圧縮空気を噴出させて水分を吹き飛ばす水切装置が記載されているのであるから、嵩高糸製造装置において冷却液附与装置から仮撚装置、加熱装置などの上に滴下する冷却液を飛散させて障害発生を防止するため冷却液附与装置の下方に圧縮気体噴出装置を設けることに思い当るのに格別の困難があるとは考えられない。

 原告は、第一引用例によつては、冷却液が滴下せず、圧縮気体噴出装置を必要としないから、右装置を示唆するところはない旨を主張するが、第一引用例のものによつて右装置を用いることが示唆されていないことは右判断の妨げとなるものではない。

 また、原告は、嵩高糸製造装置において気化熱を冷却に用いることは従来行われず、第二引用例によつて示唆されていないのみならず、本願発明の圧縮気体噴出装置は気化熱の利用を超えた効果を奏するものである旨を主張するが、気化熱を冷却に用いるという周知技術を嵩高糸製造装置において利用することは、その技術内容自体に鑑みると、これを直接示唆する文献がないからとて容易に想到しえないものではなく、また、これによつて生じる効果も、液体滴下防止を含め原告主張のものは、その性質上、すべて右技術から当然予測される範囲を出るものではないというべきである。

 してみれば、本願発明の第一引用例と相違する構成も第二引用例に基づいて当業者の容易に想到しうるところであるというべく、したがつて、本願発明をもつて第一及び第二引用例から当業者が容易に発明をすることができるものであるとした右審判の認定ないし判断は正当であり、右審決に原告主張の違法があるということはできない。

三 よつて、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨および審決理由は左のとおりである。

(発明の要旨)

 本願発明の要旨は次のとおりである。

 仮撚を附与する装置と加熱装置との間に冷却液体を附与する装置及びその下方に圧縮気体を噴出する装置を設けたことを特徴とする嵩高糸製造装置(別紙第一図面参照)。

(審決の理由)

 右審決は、本願発明の要旨を前項のとおり認定したうえ、次のような理由を示している。

 特公昭三七―三九一〇号公報(以下、「第一引用例」という。)には、「潜在的に嵩張つた糸の製造装置において、仮撚を附与する装置と加熱装置との間にアツプリケーター・ロールを設け、糸は加熱板上を接触して通過した後、液体浴中を回転しつつある紡糸仕上げアツプリケーター・ロールと接触して急冷されること」が記載され(別紙第二図面参照)、実公昭三六―二〇二八四号公報(以下、「第二引用例」という。)には、「湿潤した繊維に圧縮空気を噴出させて水分を吹き飛ばす水切り装置」が記載されている。

 本願発明は、仮撚を附与する装置と加熱装置の間に冷却液体を附与する装置を設けた嵩高糸製造装置である点で、第一引用例のものと一致し、冷却液体を附与する装置の下方に圧縮気体を噴出する装置を設けた点で、第一引用例のものと相違する。そして、本願発明における右相違点の構成は、その明細書によると、糸条に附着した液体が加熱装置又は仮撚装置上に滴下し、種々の障害を生ずるので、これを除去することを目的とするものであることが認められるが、仮撚装置、加熱装置などの上に液体が滴下すれば障害が生じることは本願出願前から周知の事実であるところ、第二引用例に前記のような水切り装置の記載があるから、第一引用例の冷却液体を附与する装置の下方に圧縮気体を噴出する装置を設ければ、上記の障害を除去できることは第二引用例の水切り装置の構成から容易に窺知できることであるので、本願発明の前記相違点の構成は当業者ならば容易に推考できる程度のものである。

 なお、請求人(本訴原告)は、本願発明における圧縮気体噴出装置をもつて、水切りのためばかりではなく、冷却効果促進のためでもあると主張するが、気化熱を冷却に用いることは本願出願前から普通に行われていることであるから、右主張の点に格別な技術的意義があるとは認められない。

 したがつて、本願発明は、第一及び第二引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、特許を受けることができない。

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