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包袋禁反言/分割出願の基礎となる原出願の事情(是認)/商品陳列取出ユニット

 

[事件番号] 平成12年(ワ)第10050号(特許権侵害差止等請求事件)

[判決言い渡し日]昭和13年4月20日

[発明の名称]商品陳列取出ユニット

[研修の趣旨]

 米国では外国出願経過禁反言(Foreign Prosecution History Estoppel)が権利解釈で認められた事例があるが(例えば714 F.2d 1110)、日本の裁判所は禁反言の基礎を当該特許出願に関連する他の特許出願に置くことに慎重であるように思われる。

 平成8年(ワ)1597号「サーマルヘッド」事件で裁判所は分割出願に係る特許権に関して原出願の事情を参酌することに関して次の趣旨の見解を示した。

 “分割出願に係る発明と分割後の原出願の発明は、別個独立のものであるから、分割出願に係る発明の技術的範囲を確定するのに原出願の発明の出願経過を参酌するのは原則として相当でなく、分割出願に係る特許権の成立が原出願と密接な関係にある場合において、分割出願の際に既にもととなった原出願の願書に添付された明細書又は図面の意味内容が原出願の出願経過の参酌により明らかになるような例外的な場合に限り、原出願に係る発明の出願経過を参酌することができるというべきである。”

 「密接な関係」を理解するために判例を探していて本事例を見つけた。その判断の妥当性や判例の射程を含めて検討したい。

[疑問点]

1.判決文では、原出願で請求項2を削除したなどの経緯と、分割出願の請求の範囲に「組み付けられた」という文言とが記載されていることに照らすと、ローラ支持板は商品陳列ケースとは別異の部材と認めるのが相当とされている。どちらか一方だけでは逆の解釈が示された可能性があるということだろうか。

[事件の概要]

①主文・請求

・主文 原告の請求をいずれも棄却する。

・請求 被告は、別紙原告第1物件目録記載の商品前出し装置を製造、販売、貸与、使用並びに販売・貸与の申し出をしてはならない。

(以下省略)

②事実関係

 (1) 原告及び被告は、ともに陳列器具類の製造、加工等を目的とする株式会社である。

 (2)ア 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。また、本件特許権に係る明細書(甲2)を、「本件明細書」という。)を有している。

 特許番号  第3022544号

 登録日   平成12年1月14日

 出願日   平成7年4月28日(原出願日)

       平成11年2月5日(分割出願日)

 発明の名称 商品陳列取出ユニット

②原告の特許権の請求の範囲

(ア)側板が立設され前後方向に商品を陳列する商品陳列ケースと、

(イ)この商品陳列ケースの底側に組付けられ前後方向にわたって軸受孔が多数設けられてなるローラ支持板と、このローラ支持板の軸受孔に軸部が架設され前出し可能に回転する多数個のローラと、

(ウ)商品陳列ケースの前端部に設けられ最前部の商品に当接するストッパとからなり、

(エ)ストッパはその下端に設けられる係止爪が商品陳列ケースの前端部に設けられる係止片に係止することで着脱可能に設けられる

(オ)商品陳列取出ユニット。

③本件訴訟争点

(1)被告が製造販売している商品前出し装置の特定

(2)被告が製造販売している商品前出し装置が構成要件(ア)を充足するか。

(3)被告が製造販売している商品前出し装置が構成要件(イ)の「商品陳列ケースの底側に組付けられ」ている「ローラ支持板」を充足するか。

(4)被告が製造販売している商品前出し装置が構成要件(エ)を充足するか。

(5)被告が製造販売している商品前出し装置の意匠が本件意匠と類似しているか。

(6)損害の発生及び額

[争点に対する当事者の主張と裁判所の判断]

{争点1に対して}

 (原告の主張)

 被告が製造販売している商品前出し装置は、別紙原告第1物件目録及び原告第2物件目録記載のとおり特定される。

 (被告の主張)

 被告が製造販売している商品前出し装置は、別紙被告物件目録記載のとおり特定される。

 (当裁判所の判断)

 証拠(甲5、乙4、5)と弁論の全趣旨によると、被告が製造販売している商品前出し装置は、別紙物件目録記載のとおり特定される(以下、この目録に記載した商品前出し装置を「被告製品」という。)。

{争点2に対して}

 (原告の主張)

 被告が製造販売している商品前出し装置は、小マット2A、2B、2C、2Dからなるローラマット1を備えている。このローラマット1には、その前後端の長溝8に係入されることで側板6が立設され、両側には側板7が立設され、これらの側板によってローラ面上が前後方向にわたって区分けされるので、構成要件(ア)を充足する。

 (被告の主張)

 本件特許の出願過程において、従前の特許請求の範囲請求項2が削除され、「商品陳列ケースを左右方向に着脱可能に連結するコネクタとからなる商品陳列取出ユニット」は、クレームの対象から除外されたから、構成要件(ア)は、1列の陳列レーンの商品陳列ケースを横方向に連結して複数の連結レーンとしたような商品陳列ケースは含まれず、当初から所定の複数レーンが固定された側板の間に一体的に形成された商品陳列ケースのみを意味すると解すべきである。

 被告が製造販売をしている商品前出し装置は、各ローラマット1が、連結調整凸部11c及び連結調整凹部11dによって横方向に相互に連結されるようになっているから、構成要件(ア)を充足しない。

 (当裁判所の判断)

{争点3に対して}

 (原告の主張)

   ア 本件発明の「ローラ支持板」は、商品陳列ケースの底側に組み付けられているものであるが、それが着脱可能であることは、要件ではない。

 本件特許は、原告が平成7年4月28日にした特許出願(以下、「原出願」という。)からの分割出願(以下「本件分割出願」という。)によるものであるが、原出願の当初の明細書の特許請求の範囲請求項1には、ローラ支持板を商品陳列ケースの底側に一体に組み付けるという技術的思想が包含されている。

 また、原出願において、原告が、意見書、手続補正書によって、「ローラ支持板」を着脱可能なものに限定している経緯があるが、本件特許は、原出願の当初の明細書の記載に基づく分割出願であって、あくまでも新たな特許出願であるから、このような原出願の審査経緯を根拠として、本件発明の技術的範囲が制約されるものではない。

   イ 被告が製造販売している商品前出し装置のローラ支持板17は、ローラマット1の底板16に一体に組み付けられているが、ローラ支持板が着脱可能であることは本件発明の要件ではないから、このような構造のものも、構成要件(イ)の「商品陳列ケースの底側に組付けられ」ている「ローラ支持板」ということができる。

   ウ 仮に、このような一体に組み付けられているものは、「商品陳列ケースの底側に組付けられ」ている「ローラ支持板」とはいえないとしても、複数の部品よりなる構成を一体の構成とすることは、プラスチック成型品では当然の技術であって、当業者としては容易に想到できることであるし、これにより、本件発明の効果に何ら変わりがない。また、本件発明は、ストッパの係止構造を本質的部分としたものであるから、「ローラ支持板」は本質的部分ではなく、構成部品を複数にしてこれを組み付けることに本質的要素がないことは明らかである。そうすると、被告が製造販売している商品前出し装置は、本件発明と均等な構成というべきである。

 (被告の主張)

   ア 原出願において、原告が、「商品陳列ケースの側板に対して着脱可能」としていたクレームを「商品陳列ケースの底側に着脱可能」と変更したこと、原出願の明細書の「発明の効果」に、「商品の大きさ、重量等に対応してローラ等を簡単に選択変更することができる効果がある。」と記載されていること、本件特許請求の範囲において、ローラ支持板が「底側に組付けられ」と明示されていることからすると、構成要件(イ)の「ローラ支持板」は、商品陳列ケースの底側に着脱可能に組み付けられているものに限定されなければならない。

 しかるに、被告が製造販売している商品前出し装置には、着脱可能に組み付けられるローラ支持板は存しない。

   イ 原出願の当初の明細書に、商品陳列ケースの底側において、一体に組み付けるローラ支持板を技術思想とするような記載は一切ないし、また、原出願の当初の特許請求の範囲請求項1にいう「組み付ける」も、上記明細書の他の個所では、各別体をなす部材を相互に一体的に結合する状態を表現する用語として使用されているから、本件発明において、ローラ支持板が商品陳列ケースと一体に成形されている構成を、「組付けられ」ているということはできない。

   ウ 「ローラ支持板」は、原出願の当初の明細書において、11の請求項中5つの請求項においてクレームされた要件であること及び本件明細書の「発明が解決しようとする課題」における記載に照らすと、「ローラ支持板」は、本件発明の本質的部分である。

 また、「ローラ支持板」が、原告の主張のように、商品陳列ケースと一体となっているものも含むとすると、そのような商品陳列棚は、本件特許の出願過程において拒絶理由通知によって出願前公知とされたもので、原告もこれを争っていないから、均等の要件のうち、「対象製品が出願時の公知技術から容易に推考できたものではないこと」を充足しない。

 (当裁判所の判断)

  (1) 本件特許が、原出願からの分割出願によるものであることは、当事者間に争いがないところ、証拠(乙1の1)によると、原出願の当初の明細書において、特許請求の範囲請求項1、2及び4は、次のとおりであったことが認められる。

 請求項1

 「両側板が相対して設けられ前後方向に商品を陳列する商品陳列ケースと、商品陳列ケースの底側に後方から前方に向けて下降傾斜する状態で回転可能に架設された多数個のローラと、商品陳列ケースの前端部に設けられ陳列の最前部の商品に当接するストッパとからなる商品陳列取出ユニット」

 請求項2

 「請求項1の商品陳列取出ユニットにおいて、ローラの軸受構造は、上縁から半円形に切込まれた軸受孔が設けられて商品陳列ケースの側板に固定される下部ローラ支持板と、下縁から半円形に切込まれた軸受孔が設けられて商品陳列ケースの側板または下部ローラ支持板に固定され下部ローラ支持板に組付けられる上部ローラ支持板とからなることを特徴とする商品陳列取出ユニット」

 請求項4

 「請求項1の商品陳列取出ユニットにおいて、ローラの軸受構造は、ローラの押込により弾圧変形してローラを抜止め嵌合させる軸受孔が設けられて商品陳列ケースの側板に固定されるローラ支持板からなることを特徴とする商品陳列取出ユニット」

 また、上記証拠によると、上記明細書において、特許請求の範囲請求項3及び5は、特許請求の範囲請求項2及び4を、それぞれさらにローラ支持板が商品陳列ケースから着脱可能なものに限定したものであること、上記明細書の実施例及び図面(図3、4、7ないし10)において、下部ローラ支持板、上部ローラ支持板及びL字型ローラ支持板として、商品陳列ケース自体とは独立した部材であるローラ支持板を用いた技術が開示されていたこと、以上の事実が認められる。

 以上の事実によると、原出願の当初の明細書における特許請求の範囲請求項1においては、ローラの軸受構造に何らの限定もないが、請求項2ないし5においては、ローラの軸受構造として、商品陳列ケースとは別部材である「ローラ支持板」を用いるものに限定していることが認められる。

 また、証拠(甲2、乙1の1、2、乙2の1ないし4)によると、本件特許は、上記原出願の請求項1について「引用例1には、商品の自重による移送具としてコロを用いた商品陳列棚が記載されている」との拒絶理由通知書が発せられた後に、上記原出願から分割出願されたものであるが、分割出願当初の明細書における特許請求の範囲は、請求項1及び2からなり、そのいずれも「ローラ支持板」を用いた技術についてのものであったこと、本件特許は、その後、請求項2を削除し、請求項1につき「ストッパ」の要件を加重する補正を経て、登録されたこと、本件明細書の実施例及び本件特許に係る図面に、原出願の当初の明細書の実施例及び図面のうち、L字型ローラ支持板を用いたものが、そのまま用いられていること、以上の事実が認められる。

 以上のような本件特許の出願の経緯及び本件特許請求の範囲に「ローラ支持板」は商品陳列ケースの底側に「組付けられ」るものであることが記載されていることに照らすと、本件特許における「ローラ支持板」は、「商品陳列ケース」とは別個の部材であると認めるのが相当である。

 被告製品においては、上記1認定のとおり、ローラ7の回転ローラ軸7aは、ローラマット1に形成された回転ローラ軸収納穴14に架設されているから、ローラの軸受構造として、ローラマット1とは別にローラを架設する独立の部材があるとは認められない。

 したがって、被告製品は、構成要件(イ)の「ローラ支持板」を充足しない。

 なお、原告は、被告製品について、ローラマット1の底板16に一体に組み付けられているローラ支持板17が存すると主張するが、前記認定のとおり、ローラマット1の底板16とは別部材のローラ支持板17が存するということはないから、原告の上記主張は、ローラマット1の底板16と一体となっている構成部分の一部をローラ支持板17と認めるべきであるという主張と解される。しかるところ、このようなものを本件発明の構成要件(イ)の「ローラ支持板」と認めることができないことは、前述のとおりである。

  (2) 原告は、被告製品が「ローラ支持板」を充足しないとしても、被告製品は本件発明と均等であると主張する。

 均等が成立するためには、被告製品が、本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たらないことを要するが、上記(1)のとおり、本件特許は、ローラ支持板を用いる商品前出し装置と、ローラ支持板を用いずに商品陳列ケースに直接ローラを架設する商品前出し装置の双方が含まれていた原出願から、「ローラ支持板」を用いる商品前出し装置に限定して分割出願したものと認められるから、被告製品のように「ローラ支持板」を用いない商品前出し装置については、特許請求の範囲から意識的に除外されたものと認めるのが相当である。

 したがって、被告製品について、均等の成立を認めることはできない。

{争点4に対して}

 (原告の主張)

   ア 被告が製造販売している商品前出し装置は、ストッパ10が、係止爪12を有するレール部材11と、レール部材11の溝13に差し込みされるコロビ止め14から構成され、ストッパ10は、係止爪12がローラマット1の前端部に設けられている係止片15に係止することで着脱可能に設けられているので、構成要件(エ)を充足する。

   イ 仮に、コロビ止め14のみが「ストッパ」であるとしても、コロビ止め14は、溝13に差し込まれて係止するところ、溝13が「係止片」に該当するとともに、コロビ止め14の下端が「係止爪」として機能し、下端に「係止爪」があると認められるから、構成要件(エ)を充足する。

 (被告の主張)

 被告が製造販売している商品前出し装置において、商品が外方に転落することを防止する作用効果を有する「ストッパ」に該当するのは、転び止め板(ストッパー)5であるところ、この部材は、その下端に係止爪を有しておらず、フロントレール4の前面壁4aと段違いリブ4cとの間に形成された転び止め板挿入溝4bに抜き差しすることで着脱自在となっているから、本件発明の「ストッパ」には当たらない。

 また、フロントレール4は、複数のローラマット1を隣接するローラマット1との間に所望の間隔をとって連結固定するための部材であって、かつ、顧客の商品陳列ケースの棚面に凹凸がある場合に複数のローラマット1を直接棚上に載置した場合に生じるローラマット1の面上のゆがみを避け、複数のローラマット1の面上を均整のとれたものにするための部材であるから、本件発明における「商品陳列ケース」とは、その目的、構成及び作用効果において全く相違する。さらに、フロントレール4の前面壁4a及び段違いリブ4cは、本件発明におけるストッパ下端の係止爪のようなものと係合するものではないから、本件発明における「係止片」に該当しない。

 したがって、被告が製造販売している商品前出し装置は、構成要件(エ)を充足しない。

 (当裁判所の判断)

  (1) 原告は、被告製品のフロントレール4と転び止め板5を合わせたものが「ストッパ」に当たると主張する。

 しかしながら、証拠(甲2)によると、本件明細書において、「発明の効果」の欄に、「商品の大きさ、重量等に対応して最前部のストッパを交換することができ、その際にストッパの係止爪と商品陳列ケースの係止片とで最前部のストッパを簡単に選択交換できると同時に確実に係止固定できる効果がある」(6欄24ないし28行)との記載があることが認められるから、「ストッパ」は、商品の大きさ、重量等に対応して交換するものであると認められるが、証拠(甲6、7)と弁論の全趣旨によると、被告製品において、商品の大きさ、重量等に対応して交換される部材は転び止め板5のみであって、フロントレール4は交換されないものと認められる。

 また、証拠(甲2)によると、本件明細書の実施例においても、被告製品の転び止め板5に相当する部材のみが「ストッパ5」とされ、この部材自体に係止爪があることが認められる。

 以上によると、被告製品の転び止め板5とフロントレール4を合わせたものが「ストッパ」に当たるとは認められない。

  (2) 原告は、転び止め板5が「ストッパ」に該当し、被告製品の転び止め板挿入溝4bが「係止片」に、転び止め板5の下端が「係止爪」にそれぞれ該当するとも主張する。

 しかしながら、証拠(乙2の1ないし4)によると、本件特許は、分割出願時の特許請求の範囲においては、ストッパの形状や商品陳列ケースとストッパとの係止構造について何ら限定がなかったところ、「引用例2には、陳列棚の前端部に着脱可能に設けられた補助ストッパー板が記載されている」旨の拒絶理由通知書が発せられたこと、原告は、特許請求の範囲を補正して、構成要件(エ)を付加するとともに、発明の効果として、ストッパを確実に係止固定できる効果があることを付加し、意見書において、引用例においては構成要件(エ)のような係止爪と係止片とによる具体的着脱構造が記載されていない旨主張したこと、その後、本件特許が登録されたこと、以上の事実が認められる。そうすると、本件発明は、ストッパの下端に「係止爪」があり、商品陳列ケースに、この係止爪と係合する「係止片」があり、これらの係合によって、ストッパが商品陳列ケースに確実に係止固定されるものであると認められる。

 被告製品においては、上記1認定のとおり、転び止め板5には、特段の機構はなく、フロントレール4の転び止め板挿入溝4bに差し込まれているだけであるから、転び止め板5の下端に「係止爪」があるとは認められないし、転び止め板5が、商品陳列ケースに、係止爪と係止片によって、確実に係止固定されているとも認められない。

  (3) したがって、被告製品は、構成要件(エ)を充足しない。

{争点5に対して}

 (原告の主張)

   ア 全体としてローラを敷きつめてなるマットで左右方向に長い方形の全体形状と、多数のローラが前後方向にわたって前出し可能に並設されたローラ部を有する形状が、本件意匠の出願前に公知であったことに照らすと、本件意匠の特徴は、左右方向に長い方形で前出し可能に多数のローラが並設されたローラ部を有するマットにおいて、

   (ア) 軸長のローラが並設されてなるローラ部を有し、ローラ部が冷蔵庫等の陳列ケースの各棚に敷設して邪魔とならない程度の薄いマット状を呈し、

   (イ) 長寸ローラの幅で前後方向に並設してなるローラ部を細枠で囲んだものを1単位とし、この細枠を左右方向に8列組付し、その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって側板用溝部を多数配置する全体配置形状を備え、

   (ウ) マットの前端に配置される透明なストッパを有していること

 であると認められる。

   イ 被告が製造販売している商品前出し装置の意匠構成は、ローラを敷きつめてなるマットにおいて、

   (ア) 軸長のローラが並設されてなるローラ部を有し、ローラ部が冷蔵庫等の陳列ケースの各棚に敷設して邪魔とならない程度の薄いマット状を呈し、

   (イ) 長寸ローラの幅で前後方向に並設してなるローラ部を細枠で囲んだものを1単位とし、この細枠を左右方向に8列組付し、その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって側板用溝部を多数配置する全体配置形状を備え、

   (ウ) マットの前端に配置される透明なストッパを有している

 ものであると認められる。

 したがって、この装置の意匠は、本件意匠に類似している。

 (被告の主張)

   ア 本件意匠の構成は以下のとおりである。

   (ア) 全体として縦横寸法比略1:1.43の長方形の一体形状からなり、前端部には透明体のストッパ部が配され、左右サイド、後端部にはいずれも立壁は存在しない。

   (イ) 平面図においては、上下端に略同一幅の長方形の枠体が配され、この長方形の枠体の内側には、いずれにも120本の短いリブが簀垂れ状に縦に懸架され、さらに2つのこの長方形の枠体は7本の長いリブで連結され、7本の各リブ間には多数のローラが架設され、全体として、1つの平面になっている。

   (ウ) 底面図においては、左右方向に8列、縦方向に上中下3列の下駄状凸部がある。

 本件意匠は、それと極めて近似した意匠が、本件意匠の出願後であるが、複数登録されていることからすると、本件意匠の範囲は、本件意匠を構成する各構成要件によって具体的に現れる極めて狭い意匠の範囲に限定される。

   イ 被告が製造販売している商品前出し装置においては、ローラマット1の前端の透明の転び止め板5、独特の形状及び意匠を有する左サイド仕切板レール2及び右サイド仕切板レール3、マットベース8のテール11の後端に所定の間隔で起立する4つの商品押し戻しストッパ11bが存する。平面図においては、マットベース8のヘッド9及びテール11の掛け違い防止前列チドリ穴12及び掛け違い防止後列チドリ穴13、回転ローラー7の奥のエアホール8dが独特の模様となって浮き上がっている。底面図においては、32個のエアホール8dと回転ローラ7からなる列状の模様が現れ、背面図においては、所定の間隔で起立する4つの押し戻しストッパー11bが見られる。左右側面図においては、転び止め板5が斜めに、商品押し戻しストッパ11bが直立した状態で見られ、スマートな印象を醸成している。

 以上のように、被告が製造販売している商品前出し装置は、本件意匠とは全く異なる非類似の構成からなり、全体として、本件意匠とは非類似の意匠である。

 (当裁判所の判断)

 4 争点(5)について

  (1) 証拠(甲4)によると、本件意匠の構成は、次のとおりであることが認められる。

   ア 左右方向に広がる方形の薄いベース上に軸長のローラが敷きつめられてなるローラ部と、その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって配置される溝部を有する。

   イ ローラ部は、前後方向にわたる細枠を1単位として左右方向に8列配置されている。

   ウ 溝部は、仕切り板の前後下端が係入する長溝を、左右方向に配列して構成される。

   エ 前側の側板用溝部の前側に、ベースにほぼ垂直に起立し、先端が内側に折れ曲がった透明なストッパ部を有する。

   オ ベースの底面は、左右方向に8列、縦方向に3列の下駄状凸部があり、各凸部には、左右方向の凸状部がある。この下駄状凸部は、平面からは、観察できない。

  (2) 証拠(甲5、6、乙4)と弁論の全趣旨によると、被告製品の意匠の構成は、次のとおりであることが認められる。

   ア 左右方向に広がる方形の薄いローラマット上に、軸長のローラが敷きつめられてなるローラ部、その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって配置される溝部及び左右の仕切板を有する。

   イ ローラ部は、前後方向にわたる細枠を1単位として左右方向に8列配置されている。

   ウ 溝部は、120本のスルーリブが形成され、仕切り板の前後下端が係入する掛け違い防止チドリ穴が、前後2列に位相して配置され、左右方向に配列されている。

   エ 前側の側板用溝部の前側に、やや斜めに起立し、先端は折れ曲がっていない透明な転び止め板を有する。

   オ 後側の側板用溝部の後側に、所定の間隔を空けてマットにほぼ垂直に起立した4つの商品押戻しストッパーを有する。

   カ ベースの底面は、左右方向に8列、縦方向に4列のエアホールが形成される。エアホールは、平面からも、回転ローラの隙間から観察される。

  (3) 本件意匠と被告製品の意匠を対比すると、次の点で共通している。

   ア 左右方向に広がる方形の薄いベース上に、軸長のローラが敷きつめられてなるローラ部と、その前後端にそれぞれ細枠状で左右方向にわたって配置される溝部を有する。

   イ ローラ部は、前後方向にわたる細枠を1単位として左右方向に8列配置されている。

   ウ 前側の側板用溝部の前側に、透明なストッパ部を有する。

  (4) 一方、本件意匠と被告製品の意匠は、次の点で相違している。

   ア 本件意匠の溝部は、1列の長溝が一定間隔で左右に配置されているのに対し、被告製品の意匠の溝部は、120本のスルーリブが形成され、仕切り板の前後下端が係入する掛け違い防止チドリ穴が、前後2列に位相して配置され、左右方向に配列されていて、独特の形状をなしている。

   イ 本件意匠は、ベースの左右側部及び後部には何らの部材も無いが、被告製品の意匠は、後側の側板用溝部の後側に、所定の間隔を空けてマットにほぼ垂直に起立した4つの商品押し戻しストッパーがあり、ローラマットの左右には仕切板が起立している。

   ウ 本件意匠のストッパは、商品陳列ケースの前端部にほぼ垂直に起立し、その先端が内側に折れ曲がっているのに対し、被告製品の転び止め板は、ローラマットの前端部にやや斜めに起立し、その先端は折れ曲がっていない。

   エ 本件意匠は、ベースの底面が、左右方向に8列、縦方向に3列の横方向の凸状部がある下駄状凸部があり、各凸部は、平面からは観察されないのに対し、被告製品の底面は、左右方向に8列、縦方向に4列のエアホールが形成され、エアホールは、平面図からも、回転ローラの隙間から観察され、独特の模様を形成している。

  (5) 以上の事実に、本件意匠に係る物品である商品前出陳列用具の用途及び使用態様並びに証拠(甲9ないし11、乙1の2)によると、本件意匠の出願前に、左右方向に広がる方形のベース上に、多数のローラが敷きつめられており、その前面に垂直に起立する前面板が設けられている商品陳列棚が知られていたものと認められることを総合すると、本件意匠の構成態様のうち、上記(3)の共通点に掲げた各態様のみならず、溝部、ベースの左右側部と後部及びストッパ部の各具体的な態様並びに回転ローラの隙間から観察される模様についても、看者の注意を惹く部分であるということができるから、これらについても、上記(3)の共通点とともに、本件意匠の要部であると認められる。そして、上記(4)認定のとおり、本件意匠と被告製品の意匠とでは、溝部、ベースの左右側部及び後部、ストッパ部の各態様並びに回転ローラの隙間から観察される模様が異なっているから、本件意匠と被告製品の意匠は、類似するとは認められない。

 5 よって、原告の請求は、いずれも理由がない。

{争点6に対して}

 (原告の主張)

   ア 被告は、別紙原告第1物件目録記載の商品前出し装置を、平成12年1月14日から平成12年3月までの間に、少なくとも1000台製造販売し、その販売高は600万円を下らない。

 原告は、本件発明を実施しているところ、原告が被告の上記製造販売相当数を製造販売すれば、少なくとも、上記被告の販売高の35パーセントに当たる210万円の利益を得られた。

 また、この利益額は、被告が、本件意匠権を侵害して得た利益と同額である。

   イ 被告は、別紙原告第2物件目録記載の商品前出し装置を、平成11年6月から平成12年3月末までの間に、少なくとも5000台製造販売し、その販売高は3000万円を下らない。

 原告は、本件意匠を実施しているところ、原告が被告の上記製造販売相当数を製造販売すれば、少なくとも、上記被告の販売高の35パーセントに当たる1050万円の利益を得られた。

 また、この利益額は、被告が、本件特許権を侵害して得た利益と同額である。

 (被告の主張)

 損害の発生及び額については争う。

 被告は、別紙被告物件目録記載の商品前出し装置について、14セットを無償提供し、142セットを販売したにすぎない。

 (当裁判所の判断)

 侵害不成立につき見解なし。

[参加者のコメント]

①本件においては、原出願の審査における拒絶理由通知→請求の範囲の補正→直後の分割出願という経緯から、「密接な関係性」が認められたように推定される。分割出願のタイミングがこれと全く別であったら、同じように原出願の経緯の参酌が認められたかどうか疑問である。

②今回のケースでは、原出願の明細書の発明の詳細な説明の欄中に実施例A及び実施例Bに記載されているところ、実施例Aに対応するクレームを削除するとともに実施例Aを削除している。この時点でのこうした実務傾向が判決に影響しているのではないか。

 

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