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無名会判例研修会

オーバーホイスト搬送車事件

2016年4月13日

担当:田中伸次

 

1.本件事件

平成26年(行ケ)第10149号 審決取消請求事件

原告:村田機械株式会社

被告:特許庁長官

 

特願2011-115010号

特開2011-166176号

不服2013-7294

 

平成27年5月27日判決言渡

知的財産高等裁判所第1部

 

2.事件概要

原告は,発明の名称を「オーバーヘッドホイスト搬送車」とする発明について,平成23年5月23日を出願日とする特許出願(特願2011-115010号)をしたが,平成25年1月10日付けで拒絶査定を受けたため,同年4月19日付けで,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。

特許庁は,上記請求を不服2013-7294号事件として審理した結果,平成26年5月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同月19日,原告に送達した。

原告は審決に不服であるとして,平26年6月17日付で,審決取消を求めて出訴した。

 

3.審査・審判経過

平成23年 5月23日         出願

平成24年 5月21日        拒絶理由通知書発送

平成24年 7月13日        意見書,補正書提出

平成24年10月 9日        拒絶理由通知書(最後)発送

平成24年11月30日        面接審査

平成24年12月10日      意見書,補正書提出

平成25年 1月21日        補正却下の決定,拒絶査定

平成25年 4月19日        審判請求

平成25年11月11日        拒絶理由通知書発送

平成26年 1月10日        意見書,補正書提出

平成26年 5月19日        審決送達

 

4.発明の内容

4.1.請求項1の記載

【請求項1】

A.オーバーヘッドホイストを搭載したオーバーヘッドホイスト搬送車であって,

B.前記オーバーヘッドホイストは,移動ステージ及びこの移動ステージの下方に取り付けられカセットポッドを把持するホイスト把持部を有し,

C.前記オーバーヘッドホイスト搬送車は,所定経路を画定する懸架軌道に沿って吊

り下げられて移動し,且つ,前記オーバーヘッドホイストを前記懸架軌道よりも下方位置に搭載し,

D.前記移動ステージは,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部が前記オーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置するように前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ,且つ,その全部が前記オーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置するカセットポッドを前記ホイスト把持部により把持可能なように前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ,

E.前記オーバーヘッドホイストのホイスト把持部が,前記オーバーヘッドホイスト搬送車のいずれかの側方において,カセットポッドが配置された又は配置される固定棚の上方へ直接到達し,

F.前記移動ステージは,前記ホイスト把持部を,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置からこの第1の位置よりも水平方向に遠く且つ前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置へ水平方向に移動させるように設定され,前記ホイスト把持部は,前記第1の位置から前記オーバーヘッドホイスト搬送車の真下に位置する処理加工治具ロードポートへ下降してカセットポッドを取り上げ又は配置し,且つ,第2の位置へ移動した後に第2の位置から前記処理加工治具ロードポートより高い位置にある前記固定棚へ下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する

G.オーバーヘッドホイスト搬送車。

 

4.2.用語

WIP          仕掛品(ワーク-イン-プロセス)

AMHS       自動化マテリアル取扱システム

FOUPs   フロント・オープニング・ユニファイド・ポッド

 

4.3.課題

本件発明は,半導体ウエファ類を搬送するオーバーヘッドホイスト搬送車に関する(【0001】ないし【0003】)。

従来のオーバーヘッドホイスト搬送車は,仕掛品パーツ類(半導体ウエファ)が入ったカセットポッドを,仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)のインプットポートにおろしたり,アウトプットポートから引き上げたりするものである(【0003】,【0015】,【0016】)。

そして,従来,仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)内部の多軸ロボットアームが,カセットポッドを仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)へ移し入れたり,移し出したりするようになっているところ(【0003】,【0016】),一般的にデリケートな品質を有する半導体ウエファを扱うロボットアームの加速には厳格な制約があるのが通常であるため,ロボットアームの複雑な動きでロボットアームがインプットポート/アウトプットポート内にあるカセットポッドに近付くのに時間を要し,これによって,自動化マテリアル取扱システム全体の効率に限界があり,したがって,マテリアル取扱効率を上げるためには,仕掛品貯蔵ユニットのインプットポート及びアウトプットポートの数を増やし,オーバーヘッド搬送車が同時に多数のインプットポート及びアウトプットポートに達するようにすることが必要であるが,これには,仕掛品貯蔵ユニットのコストが大幅に高くなるという課題があった(【0004】)。

本件発明は,このような課題を解決し,高能率のマテリアル自動化取扱システムのオーバーヘッドホイスト搬送車を提供するものである。

 

 

 

4.4.実施例

図6は、コンベヤ895の上にあるか又は移動中のマテリアルにアクセスする移送ホイスト搬送車システム800を図示する。特には、オーバーヘッドホイスト搬送サブシステム804を用いて、FOUP810をオーバーヘッドレールをベースとするコンベヤ895から直接取り上げたり、乗せたりするようになっている。図示の実施例では、オーバーヘッドホイスト搬送サブシステム804は、架設されたトラック808と、トラック808にそって走行するオーバーヘッドホイスト搬送車805を含んでいる。例えば、オーバーヘッド搬送車805は、トラック808から距離836(約0.9m)をおいた下方にあり、レールにのったコンベヤ895から距離892(約0.35m)をおいた上方に位置する。さらに、オーバーヘッドレール898は、高くなっているICチップ製造フロアーから距離838(約2.6m)をおいた上方に位置する。理解されるべき点は、レール898は、図面の面に対し垂直方向にある点である。移送ホイスト搬送車システム800は、さらに、処理加工治具ロードポート899を含んでいる(【0032】)。

オーバーヘッド搬送車805を用いて、レールに乗せられたコンベヤ895への上方からの積み卸しを行うようになっている。この目的のために、オーバーヘッド搬送車805には、ホイストグリッパー835をもつオーバーヘッドホイスト831が含まれていて、これは、移動ステージ833に取り付けられ、これは、矢印870,871それぞれに示すように、水平及び垂直移動できるようになっている。図示の操作モードにおいては、レールに乗っているコンベヤ895が動いてFOUP810をオーバーヘッドホイスト831の直下に位置させる。ついで、移動ステージ833を介してホイストグリッパー835がFOUP810に向けて降下し、コンベヤ895からFOUP810を直接掴み上げる。ついで、FOUP810を保持しているホイストグリッパー835を移動ステージ833を介して引き上げて後退させ、このようにしてFOUP810をオーバーヘッド搬送車805内へ移動させる。ついで搬送車805でFOUP810をICチップ製造フロアーのワークステーション又は処理加工マシンへ運ぶ(【0033】)。

 

5.争点

取消事由1

 刊行物2発明の認定の誤り及びこれに基づく本件発明との一致点・相違点の誤り

取消事由2

 刊行物1事項の認定の誤り及びこれに基づく相違点1の容易想到性の判断の誤り

 

 

 

6.刊行物2に記載の発明

7.検討事項

7.1.相違点1に認定について

裁判所は,相違点1を以下のように認定した。(判決書P.31)

「本件発明では,下方にホイスト把持部が取り付けられた移動ステージを有し,棚が固定棚であり,前記移動ステージは,

 前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置するように前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ,且つ,その全部が前記オーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置するカセットポッドを前記ホイスト把持部により把持可能なように前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ,前記ホイスト把持部が,前記オーバーヘッドホイスト搬送車のいずれかの側方において,固定棚の上方へ直接到達し,

 前記ホイスト把持部を,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置からこの第1の位置よりも水平方向に遠く且つ前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置へ水平方向に移動させるように設定され,前記ホイスト把持部を前記第1の位置及び第2の位置から下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する,ように構成しているのに対し,

 刊行物2発明では,棚が固定棚ではなく,水平揺動自在な移動棚である物品載置台11であり,

 前記昇降部3cの把持具3dが,棚である物品載置台11の上方に位置するのが,水平揺動自在な移動棚である物品載置台11が移動体3の走行経路の脇に引退する状態から走行経路に進出する状態に切り換えられることにより,

 前記把持具3dが加工装置5のステーションSTへ下降するのは,水平揺動自在な物品載置台11が走行経路の側脇に引退する状態であり,前記加工装置5のステーションSTより高い位置にある前記物品載置台11へ下降するのは,物品載置台11が走行経路に進出する状態であるものの,下降開始の位置は異ならない点。」(下線部分が,審決と異なる部分)

 

7.2.相違点についての容易想到性の判断について

 被告の主張1(判決書P.35)

 刊行物2発明のような,把持具3dを下降させて物品載置台11へ物品を移載する物品移載手段BMがあり,該把持具3dに対して物品載置台11が移動体3の走行経路の両脇に位置するレイアウト構造を有するものにおいては,①物品載置台11の物品載置部分側を把持具3dの真下に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを下降させるか,又は,②移動体3の把持具3d側を物品載置台11の物品載置部分の真上に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを降下させるかは,単に二者択一的な動作を選択することで,当業者ならば当然着想する技術思想であり,上記②の構造とした場合には,物品載置台11の横幅方向の移動機能が不要になるため,これを固定式の物品載置台にできることも,当業者には自明の事項にすぎない。

 

 裁判所の判断1(判決書P.35)

 刊行物2発明においては,把持具3dが,物品載置台だけではなく,加工装置との間でも単一の移載手段(昇降手段)を兼用することで構成を簡素化することを技術的意義とするものであり,上記①の構成をあえて②の構成に変更することの動機付けがないから,刊行物2発明において上記②の構成が上記①の構成と二者択一的とはいえないし,結局のところ同主張は後知恵的な発想であり,採用することができない。

 被告の主張2(判決書P.35)

 ①刊行物2の請求項11に係る発明についての段落【0012】には,刊行物2発明において把持具3d側を横幅方向に移動させることの示唆がある,②刊行物2に物品を横幅方向に移動させる実施形態(図12)が具体的に記載されていることも,刊行物2発明の把持具3dを横幅方向に移動させることの示唆であり,この実施形態の屈曲アーム20bは物品Bをわずかであっても上昇(垂直移動)させてから水平移動させ,下降(垂直移動)させるものであるから,刊行物2発明の把持具3dに水平移動させる機能を付加することの動機付けがある。

 

 裁判所の判断2(判決書P.36,37)

 請求項11の記載も段落【0012】の記載も,移動体の物品保持部への移載手段とステーションへの移載手段とは単一の物品移載手段で兼用するということを前提とするものである。したがって,段落【0012】は,物品を昇降移動させる単一の物品移載手段で保持部移載手段とステーション用移載手段とを兼用している刊行物2発明に,保持部移載手段についてのみ,請求項11に係る発明のような物品を移動体横幅方向へ移動させる物品移載手段を備えさせることを示唆するものとはいえない。

 図12の実施形態において,屈曲アーム20bが物品Bを「僅かに」昇降させることができるものとされているのは,物品Bを移動体横幅方向に移載するために必要な限りでそうなっているのであって,物品Bを垂直方向に移動させて物品Bの移載を行うことを意図するものであるとは認められず,上記段落【0032】の記載をもって,物品を移動体横幅方向に加えて垂直方向への移動手段により移載する物品移載手段を備えさせることを示唆するものとはいえない。

 

7.3.刊行物1の認定について

裁判所は,刊行物1に認定について,以下のように述べた。(判決書P.38)

上記再度認定した構造は,刊行物1事項の具体的な構成を,本件発明の構成に相当するものと言い換えて得られたものであるから,刊行物1事項を包含する上位概念というべきものであり,刊行物1事項そのものではない。このような認定方法は,刊行物1事項の刊行物2発明への適用の容易想到性を検討する前に,刊行物1に記載された具体的な構成を捨象して,適用対象となる事項を認定するものであり,結果として容易想到性の判断の誤りをもたらす危険性が高く,相当ではないというべきである。

 

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